小・中学生も知っておきたい「コーチャー」の役割と種類
ランナーコーチャーの思考と判断について体系化、解説した『三塁コーチャーバイブル ランナーコーチャーの思考と判断: 超機動力 0.2秒を制する』が10月に発売になりました。 「ランナーコーチャーは大切だ」とよく言われますが、それを専門的に教えてくれる人やコーチは、小中学校の野球ではあまりいないのではないでしょうか?この本は主に高校野球の三塁コーチャーをモデルに書かれた本ですが、小中学の野球でも知っておくべきことなどが書かれています。著者の川島敏男さんにお話を伺いました。 「三塁コーチャーバイブル ランナーコーチャーの思考と判断: 超機動力 0.2秒を制する」 【5つあるコーチャーの種類】 ――「コーチャー」と言われると、まず思い浮かぶのは「三塁コーチャー」と「一塁コーチャー」ですが、他にも種類があるそうですね。 川島 「ホームベースコーチ」「ベンチコーチ」「セルフコーチ」と全部で5つあります。 ――「ホームベースコーチ」は耳にすることがありますが、「ベンチコーチ」と「セルフコーチ」はなかなか耳にしないですね。どんな役割なのでしょうか? 川島 まず「ホームベースコーチ」ですが、三塁ランナーはホームにかえってくるときはボールが見えていないですから、返球されたボールがホームベースの右に来ているのか、左に来ているのか真っ直ぐ来ているのか分かりません。そのときにネクストバッターの選手は「ホームベースコーチ」としてベース近くまで行ってボールを見て、どちら側にスライディングするのがいいのか、ヘッドスライディングなのか足なのか、それとも駆け抜けた方が良いのか、こういった指示をランナーに対して行わなければなりません。それによってホーム上でのクロスプレー、一瞬の攻防で得点が入るか入らないかが決まるという、非常に重要な役目があります。 ――甲子園でもよく見る光景ですね。 川島 でもそんな重要な役割なのに指示を出さずに棒立ちだったり、片手にバットを持ったまま指示をしたり「ホームベースコーチ」の意識が低いチームが甲子園でさえも見られます。この辺りのことは、少年野球の頃から「ホームベースコーチ」という存在、役割をしっかり教えてあげることが大事だと思います。 ――次のバッターは戦況を見て、ヒットを打ったら自分がホームコーチャーを務めないといけないと意識することから教えないといけないですね。 川島 そうですね。ホームにかえってくるランナーに指示が出しやすい位置まで急いで行って、走路にバットがあれば素早くどけたりとか、そういったことも教えてあげて欲しいですし、少年野球だろうがプロ野球だろうが「ホームコーチャー」の役割というものは変わりませんので、小さい頃から習慣にしてほしいですね。 ――「ベンチコーチ」とはどんな役割になるのでしょうか? 川島 「ベンチコーチ」とは、ベンチにいる選手が声を出して指示、確認を行うことです。「言わなくても分かっているだろうな」というときにミスが起こるものなので、ベンチから念には念を押す意味で監督の指示や状況の確認などをベンチから声を出してグラウンドの選手達に伝える役割があります。 ――「ベンチコーチ」という役割もあることを子どもにも教えてあげると、より試合を集中して見るようになりますね。見ていないと指示や声が出せないですもんね。 川島 今まで以上に相手バッテリー、野手の動きはもちろん、味方の選手の動きなどをよく見ることに繋がると思います。そうすると野球を見る視野が広がって野球のレベルアップにもなるかなと思います。 ――少年野球の現場を見ているとベンチから監督、コーチが状況に応じて全て指示を出しているような場面も多く見られます。それは子ども達の「ベンチコーチ」の機会を奪っているとも言えるかもしれませんね。 川島 指導者のトップダウンの部分と選手達のボトムアップの部分と、ちょうど良いバランスが大事かなと思います。 ――「セルフコーチ」とはどんな役割なのでしょうか? 川島 全てをコーチャーに任せるのではなく「セルフコーチ」というのは自分で判断できる部分は自分で判断して自立したランナーになろうということですね。今年の夏の甲子園で早稲田実業の宇野真仁朗選手がレフト前ヒットを打ったとき、レフトの動きを見て一気に二塁まで行ったシーンがありました。あれは一塁コーチャーの指示で行ったわけではなくて自分で打球を見て判断して行ったわけですよね。あれこそがまさに「セルフコーチ」としての判断ということになります。 【コーチャーはどこに立つ?】 ――状況に応じてコーチャーはコーチャーズボックスのどの辺に立つべきかまで指導されている少年野球チームはあまりないと思うのですが、簡単に説明していただけますでしょうか? 川島 コーチャーズボックスは3m×6m(学童野球は1.22m×2.44m)あるんですけども、ランナーがいない場合はバッターへの指示、アドバイス、激励という打者とのコミュニケーションが重要になるので、一塁コーチャーも三塁コーチャーも一番バッターボックス寄りの、コーチャーズボックスの角に立ちます。 ――ランナー二塁のは場合はどうなりますか? 川島 二塁ランナーは一塁、三塁両方のコーチャーが見ることになりますがそれぞれ役割が異なります。一塁コーチャーは二塁ランナーに対してセーフティーリードの位置を示してあげることが必要になります。 例えば第一リードが3メートルというふうにチームで決まっていたとしたら、一塁ベースから3メートルホーム側に移動したところに立って手をあげて「ここまでが第一リードの距離だよ」と二塁ランナーに示してあげる。第二リードが5メートルという決まりごとがあるのであれば、もう2メートル移動して「第二リードはここまでだよ」と示してあげる。そこの基準を明確にしてあげないと、ランナーによって第一リード、第二リードの位置がバラバラになってしまいます。それは得点の機会にも大きく影響してきます(上記のリードの距離は一例です。その距離はチームによって異なりますので、練習の中で指導者と選手でその距離を決めることが理想です)。 ――かなり高度なことですが分かりやすいですね。 川島 だからチームとして第一リード、第二リードの距離をまずは決めておく。コーチャーはそれを理解してセカンドランナーにしっかりと伝えるということが大事になってきます。でもそこまで徹底できているチームは高校でもあまりないですね。 ――学童野球でそこまでコーチャーに求めるのも難しいかもしれませんが、でも一塁コーチャーって「リーリーリー」「バック」とか牽制のときに声を出すだけじゃなくて、状況や目的によって立つ位置が変わるんだよと教えてあげるだけでも、勉強になる気がしますね。 (聞き手:ヤキュイク編集部) ※後編「コーチャーズボックスは野球が上手くなる特等席」に続きます 著者プロフィール 川島敏男(かわしまとしお) 東京都杉並区出身。日本大学第二中学校-日本大学第二高等学校-明治大学野球部出身。遊撃手をしていた13歳、中学1年生の秋に右肩を故障。一冊の本に出合い、三塁コーチャーの道を志す。高校2年の夏に三塁コーチャーとして甲子園に出場する。明治大学野球部のセレクションも三塁コーチャーとして受け、大学創立100周年の年に入部する。2年連続大学選手権優勝を経験する。高校野球部のコーチ・助監督として、指導者としても甲子園出場を経験。現在は、超機働力~0.2秒を制する三塁コーチャーバイブルセミナーや、野球AIアナリスト分析資格講座をオンラインやリアル開催している。受講したチームから甲子園出場、全国大会で活躍したチームを輩出している。一般社団法人蒼空希望学園理事長。U-15・U-12公認野球指導者。 詳しく見る 「三塁コーチャーバイブル ランナーコーチャーの思考と判断: 超機動力 0.2秒を制する」 川島敏男 (著)
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