この「二日酔い止め」はアルコールが肝臓に届く前に分解してくれる
［クァク・ノピルの未来の窓］ 乳清たんぱく質に鉄・ブドウ糖・金を混ぜたジェル 「マウス実験」から5時間後、血中アルコールが半分に スイス研究陣、商品化狙い特許申請
酒は飲んだ時は気持ちがいいが、飲みすぎると翌日に頭痛など二日酔いの後遺症を甘受しなければならない。市販のいろいろな二日酔い解消剤やドリンクが出回っているが、人々が期待するほどの大きな効果はみられない。錠剤1粒でこの苛立たしい後遺症から抜け出せるとしたらどうだろうか？ スイスのチューリッヒ連邦工科大学（ETH Zurich）の研究陣が、二日酔いを「事後解消」するのではなく「事前遮断」できるジェル状のアルコール分解物質を開発し、国際学術誌『ネイチャー・ナノテクノロジー』に発表した。 研究陣が開発したこのジェルは、チーズの製造過程で出てくる乳清たんぱく質の主成分であるβ-ラクトグロブリンを主材料とし、そこに鉄分、ブドウ糖、金粒子を混ぜたものだ。ジェルが体内に入ると、酵素のように働き、アルコールをアセトアルデヒドという毒性副産物を生成せずに直ちに無害な酢酸に変える。 ほとんどのアルコールは胃と腸の粘膜を通じて血流に入る。今回開発された物質は、血流に入る前にアルコールを分解してくれることが特徴だ。そのため、肝臓でアルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒドが発生しない。アルコールの分解場所が肝臓ではなく腸に変わるためだ。アセトアルデヒドは二日酔いの症状を誘発し、肝臓を損傷させる物質だ。 ■アセトアルデヒドを生成せずにアルコールを分解 研究陣はまず、乳清たんぱく質を数時間茹で、長く細い糸状の微細たんぱく質構造（原繊維、fibril）を作った後、塩と水を加えてジェルにした。ジェルの長所は消化がゆっくり進む点にある。 その後、触媒として使用する鉄原子を原繊維の表面にまんべんなく塗る。これでアルコールを酢酸に変える準備は整ったわけだ。 しかし、人間の腸でこの反応を起こすには若干の過酸化水素が必要だ。研究陣はブドウ糖と金のナノ粒子を反応させて過酸化水素を得る方法を考案した。金は消化されない金属物質であるため、腸で長い間過酸化水素を生成する触媒の役割を果たせるという長所もある。 このようにして、多段階の酵素反応を通じてアルコールを酢酸に分解できる能力を備えた複合ジェルが作られた。 ■アルコールが肝臓に吸収される前に胃・腸で作動 このジェルは果たしてどれほどの効果があるのだろうか？研究陣はマウスを対象に10日間アルコールを投与しながら、この二日酔い解消ジェルの効果を実験した。 まずアルコールを1回投与して30分経過してジェルを飲ませた結果、マウスの血中アルコール数値が40％下がったことを確認した。アルコール投与から5時間経過してからは数値が56％下がった。 研究陣は、実験期間中のジェルの効果は安定的だったと明らかにした。アルコールと共にジェルを毎日摂取したマウスは、肝臓の損傷も少なく、脂肪代謝と血液指標も良くなった。また、脾臓のような他の臓器や組織もアルコール摂取による損傷がはるかに少ないことが分かった。 研究陣は商品化を目標にすでにこのジェルに対する特許を申請している。実際、二日酔い解消剤として市販するためには臨床試験を経なければならないが、乳清たんぱく質は牛乳から抽出したものであるため、この段階も成功裏に終えることができるとみている。 今回開発されたアルコール分解剤が既存の二日酔い解消剤と違う点は、アルコール摂取による事後症状より原因解消に焦点を合わせている点にある。研究陣はマウス実験で確実な効果を確認しただけに、人間も酒を飲む前や飲んでいる間にこのジェルを服用すれば、血中アルコールの上昇を抑制し、二日酔い症状も緩和できると期待した。 しかし、ジェルはアルコールが消化器官にある間だけ効果がある。一旦アルコールが血流に移った後には役立たない。また、社会的には飲酒の自制を勧めるムードにふさわしくないため、迎されない可能性もある。研究陣もこのジェルがアルコール消費そのものを減らすには役立たないとみている。 研究を率いたラファエル・メゼンガ教授は「このジェルはアルコールを完全に断ちたくはなく、また体に負担を与えたくもない人々にとって特に興味深いだろう」と話した。 *論文情報 DOI: 10.1038/s41565-024-01657-7 Single-site iron-anchored amyloid hydrogels as catalytic platforms for alcohol detoxification。 クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
