「パーマの1液と2液の間に買い物に行く」実はタイパ重視な奥田民生の「ゆるさ」の正体
パーマの1液と2液の間に買い物に行く
マジメにやるところと“そこそこ”にしておくところ……。当たり前だがゆるさ一辺倒では、いい感じの生き方にたどり着くことはできないだろう。奥田さんも、世間のイメージこそ“ゆるい”“力まない”といったものだが、実は「時短」や「効率」をかなり重視しているのだという。 「本にも書いてありますけど、動画も1.5倍速とか2倍速で見ているし、何なら2.5倍速で見たいくらい。世の中は今、“タイパ”って言葉が流行っているけど、これは僕も嫌いじゃないですね」 そこでどんなタイパをおこなっているのか聞いてみたところ、「パーマの1液と2液の間に服を買いに行くのはタイパ?」という質問が。 「パーマの1液と2液の間に、10分ぐらい待つ時間があるでしょう ?その間に僕は服を買いに行くんですよ。美容院のマントをつけたまま。もちろん馴染みの洋服屋さんだからできるんだけど、そこは普通にコーヒーを飲んでいてもいい時間だと思うんですよね。でもたまたま一回それをやってからは、毎回必ずやるようになって。今タイパについて聞かれたので、あれもタイパかね? と思ったんですけど」 他にも、こんな独特のタイムパフォーマンス観を教えてくれた。 「僕、本を読むのが苦手なんですよ。いや、本ならたとえば今日5分読んで、明日また5分読んで、って区切れないこともないからまだいいか。けっこう苦手なのは映画で。見始めたら2時間は他のことができないと思うと、ちょっとキツい。もちろん見るときは見ますけど、頻繁に見ようとは思わないです。 だからコンサートも2時間とかやりますけど、正直そんなに長くいらないよねって思ってる。ただ観客は何千円何万円ってお金をかけて来てくれているわけだから、『いらないよね』っていう理由で3曲だけってわけにもいかないですからね。でも本音は、あれもどうにかならんもんかね、と思っているんだよね」
ダラダラしていたいけどダラダラしている状況は嫌い
一つのことにじっくり時間を費やすのではなく、本当はいろんなことを並行してやっていたいタイプでもあるという。 「マルチタスクっていうの? そういうのをやりたいんだけど、並行する能力もそんなになくて。どっちもどっちでとっ散らかったりするんだけどね。たとえば曲を作っているときも、1つの曲に専念して仕上げればいいものを、あっちのもう1つの曲のこともチラチラ気になってどっちつかず、みたいな。これタイパじゃないですね、結局時間かかってる(笑)。でも本当はやりたいんですよ、いつの間にか3曲できてますって」 自分はゆるいしダラダラもしていたいけど、ダラダラしている状況は嫌いなのだという。一体どういうことか?? 「終われるもんは早く終わらせたい。そこでダラダラはしたくないんだけど、内容はダラダラしていたいんですよ。さっき時短好きって言いましたけど、今やっていることがどうやったらめちゃくちゃ早く終われるか、ということに一番命をかけているんです。時間かけてできるのは当たり前なんで。だけど、そんなこと言ってお前がやっているのはこれかい! っていうのが、僕の言う“内容はダラダラしている”なんですよ。……どういうこと?(笑) 分かりにくいですけど、これでも分かりやすく言ってるんです。 だからつまり、どうでもいいことに気合いが入る人間なんですよ、タイプとしては。まわりがどうでもいいと思っていることに。『そこにそんな頭使って改革しなくていいですよ』って言われたら、『そうだね』ってなる。でもそこをプチ改革することに喜びがあるんですよ」 後編【「夢や目標はない」と語る奥田民生が30年間ソロ活動を続けてきた理由】では奥田さんのミュージシャンとしての在り方について。「夢や目標はない」と語る奥田さんの「ゆるさ」のなかにあるブレない軸とは。 奥田民生 1965年5月12日、広島県生まれ。1987年、ロックバンド「ユニコーン」でデビュー。『大迷惑』『働く男』『すばらしい日々』など数々のヒット曲を世に送り出す。93年に解散。94年からソロ活動を本格的に開始。以降、『愛のために』『イージュー☆ライダー』『さすらい』など数多くのヒット曲をリリース。またPUFFY、木村カエラのプロデュースや、井上陽水とのユニット「井上陽水奥田民生」をはじめとした様々なミュージシャンとのコラボレーションなど、多方面で活動。2009年、ユニコーン再始動。ソロとしては2024年10月に活動30周年を迎えた。
山本 奈緒子(フリーライター)