じつは、同じ地域でも学校ごとに明確な「体験格差」が存在しているという「厳しい現実」
低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】子ども時代に「ディズニーランド」に行ったかどうか「意外すぎる格差」 発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。
より細かく「地域」を見ていくと
地域と体験格差という観点に立ったとき、今回の調査だけでは見えてこない、より細かな地域ごとの実情があるだろう。 まず、今回の集計で「都市部」とした三大都市圏の中には、実際には、政令市のような人口規模の大きな自治体から、山間部の小規模な自治体までが含まれてしまっている。 こうしたざっくりとした分類が有効でないわけではもちろんないが、もし都道府県レベルではなく、より細かな自治体のレベルで「都市部」と「地方」の分類を行うことができれば(それに足るサンプル数の調査を実施することができれば)、「体験」の機会やそれに対する支出の程度の違いは、より明確に見えてくるだろう。 さらに言えば、同じ自治体の中でも、地域ごとの違いが存在する。首都圏のとある自治体では、JRの駅周辺には高級マンションが建ち並び、スポーツクラブや音楽教室などが多くある一方で、駅から離れたエリアに行くほど民間事業者は少なくなり、公共施設で活動する地域のボランティアによる体験の場が増えていく。 これらのエリアは互いに隣接していて、徒歩や自転車でも移動できるほど近い。だが、どちらのエリアに住んでいるかによって、子どもたちが選び得る「体験」のあり方は変わってくるだろう。 地域によっては、そもそも「体験」の選択肢自体が乏しい場合も少なくない。東京都内で子どもの居場所づくりをしているNPO法人 Chance For All 代表理事の中山勇魚氏は、次のように語る。 経済的に困難な家庭の多い地域に行けば行くほど、地域の「体験」の担い手そのものが少ないですね。お金を払って体験に参加しようとする人が少ないうえ、家庭に経済力もないので、民間事業者による習い事などが成り立ちにくいからです。地域の住民たち自身もスポーツや文化活動に触れてきた経験が少なく、ボランティアなどの市民活動の担い手も育ちにくいのだと思います。 教育社会学者の松岡亮二氏が著書『教育格差』の中で紹介しているある自治体のデータによると、1種類以上の習い事をしている公立小学校4年生の割合は、その自治体全体で84%だった。だが、その同じ割合を学校ごとに見ると、100%の学校もあれば、45%の学校もあったのだという。学校ごとに明確な差があったわけだ。 松岡氏は同著の中で、異なる学校や地域の間で、親の社会経済的地位(Socio-economic Status:SES)や文化資本の格差が存在していると指摘する。たとえ学習指導要領などによって日本の義務教育が全国で標準化されていても、細かな地域ごとに規範や価値、子どもや教育に対する期待のあり方には差異があり、それが「隠れたカリキュラム」として機能しているというのだ。 何らかの「体験」をしてみたい、自分の子どもにさせてみたいという欲求自体、一定程度、社会的な影響のもとにある。次のパートでは、子どもの「体験」と、その親の子ども時代の「体験」との関係を見ていくことにしよう。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)