マルチェロ・マストロヤンニに抱かれているみたい 2008年型マセラティ・クアトロポルテSのテスト・リポート こんなに楽しいV8サルーンはない!
これはフェラーリの4ドアだ!
雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2008年9月号に掲載されたマセラティ・クアトロポルテSの国際試乗会のリポートを取り上げる。イタリアはモデナからの熱風は、430psのマゼラーティ・クワトロポルテS。2008年に初のフェイスリフトで新加入した、この高性能版を駆り、オーストリアはザルツブルク周辺の山岳地帯でいちばん乗りしたインプレッション。大型4ドア・サルーン界にトライデントの新たな神話が生まれたのか!? 【写真13枚】2008年型マセラティ・クアトロポルテSとはどんなスポーツサルーンだったのか? 詳細画像でチェックする ◆フェラーリの4ドア テスト・ドライブ出発地点のホテル・ザッハーを出て、ザルツブルクの市内を走り始める。アルプスの渓谷にある古都ゆえ、道が込んでいる。フロントのV8エンジンが控えめな鼓動を伝えてくる。どくん・どくん・どくん。どくん・どくん、と胸を高鳴らせているのは私だ。まるでフェラーリに乗っているときみたいに胸騒ぎがする。マセラティがフェラーリ傘下にあった時代に開発されたこのクルマ、いわばフェラーリの4ドアなのである。 マセラティは06年にフェラーリから離れ、再びフィアット・グループ入りして現在に至っている。販売は好調で、07年に発表したクワトロポルテ・オートマチックと新型2ドア・クーペのグラントゥリズモがそろった今年の上半期は4581台を出荷、前年同期比42%ものプラスを記録したという。03年以来、右肩上がりの生産台数は08年、過去最高の9000台に達する見込みだ。 数週間前にはクーペの高性能版、グラントゥリズモSが発表されたばかり。続いてクワトロポルテのフェイスリフトである。マセラティはいま、イケイケどんどん状態。こんなに矢継ぎ早に新車熱風を吹き出せるのは、フェラーリ、マセラティ、アルファ・ロメオのイタリア高級車ブランド同士で、VWグループみたいなプラットフォームとパワートレインの共用を実現し、開発速度を驚異的に速めているからである。 内外装の小変更を除くと、フェイスリフトの目玉は4.7リッターのクワトロポルテSである。従来の4.2はそのまま残り、メルセデスS550L、アウディA8L、BMW750Li、ジャガーXJ8Lなどを直接のライバルとする。クワトロポルテSは、前述のラグジュアリー・セダン群の上位にあって、S63AMGやE63AMG、あるいはS8、XJR等のハイパー・スポーツ群に近いけれど、S600Lをはじめとする12気筒フラッグシップ群も視野に入れている、と自らを位置づける。 排気量と馬力で見てみると、S550は5.5リッターで388ps、750は4.8リッターで367psである。クワトロポルテSは4.7リッターで430psだから、ことパワーに関してラクシュアリー・サルーン群では突出している。ところがS63AMGの6.2リッター、525psやM5の5リッター、507psと較べると圧倒的に非力。それでいてクワトロポルテのイメージはスポーティ&ラグジュアリーなのだから、独特の立ち位置といえる。これもイタリア製であるゆえ、フェラーリ製エンジンを持つがゆえだろう。 ◆デュオ・セレクトは需要がない フェイスリフトの中身を具体的に見てみよう。外装ではクワトロポルテも同Sも、前後バンパーを一新。フロントで35mm、リアで10mm長くなった。特徴的な縦方向グリルのフィン、サイド・マーカー込みのヘッドライトが新しい。グラントゥリズモのモチーフを取り入れた新デザインは、むろんピニンファリーナによる。内装ではセンター・コンソールのデザインが変わり、BOSEのマルチ・メディア・システムを新たに採用して、昨今の要望に応えている。 アルファ8Cコンペティツィオーネや身内のグラントゥリズモSと共通の4.7リッターV8は最高出力430ps/7000rpmを発生する。8Cは450ps、グラントゥリズモSは440psで、だんだん下がってきているけれど、最大トルクの490Nm(50.0kgm)は4750rpmの発生回転も含めてグラントゥリズモSと同じで、8Cより10Nmぶ厚い。つまりはより実用型になっている。 注目すべきは、グラントゥリズモSがトランスアクスル+エレクトロ・アクチュエイテッド6段ギアボックス(旧名デュオ・セレクト、またはカンビオコルサ)であるのに対して、クワトロポルテSは4.2と同じトルコンATのままであるということ。なぜATだけなのか、という質問にマセラティの回答はシンプルで、「需要がないから」。今年上半期で販売されたクワトロポルテはATが1673台、デュオ・セレクトはわずか83台に過ぎなかったという。 排気量が増えているにもかかわらず、車重は4.2の1990kgと同一。したがって前後重量配分も49対51のままだとされる。 動力性能は、0-100km/h加速5.4秒、ゼロヨン13.7秒、最高速280km/hを誇る。0-100km/hは5.5リッターのS550Lと同タイムなのだからアッパレ。しかもクワトロポルテはS550Lより80kgも重い。フェラーリ・エンジンがハンディをものともしていないのだ。ちなみに4.2は、それぞれ5.6秒、14.2秒、270km/hと発表されている。 ◆マルチェロ・マストロヤンニ ザルツブルク市街を抜けると、ドイツ領に入り、風光明媚で知られるベルヒテスガデンを通過する。山岳路を走るのに、現行生産車でクワトロポルテS以上に楽しい大型サルーンがあるだろうか、と私は思う。 まずもってフェラーリ製4.7リッターV8がイイ。このV8はトルクが身上で、4.2に較べてロー・エンド・トルクが1.5割がた増している。踏めば豊かなトルクがおのずと湧き出す。このエンジン、2500rpmで最大トルクの82%をつむぎだす。 仮に足らざるときは、自動変速機が補ってくれる。ZFの6段ATは、流行のデュアル・クラッチ・ギアボックスほどではないにしても、その変速は素早くスムーズで、不満が浮かばない。スポーツを選ぶと、変速はさらに速くなり、回転を高めにキープしてドライバーを高揚させる。 ただし、V8は許容回転の7200rpmまで回しても、むせび泣かない。ぶ厚い中低速トルクの恩恵で、むしろ4.2より静かになった、と思わせる。それでも、マルチェロ・マストロヤンニに抱かれているみたいにドキドキする。抱かれたことはないです。タクティクス(古い)。 乗り心地は電子制御のスカイフック・サスペンションをノーマルにしておくと、ゆったりしている。それでありながら、ノーズ・ダイブ、スクウォットがないことも印象的で、ボディはつねにフラットに保たれる。ATのスポーツ・モード・スイッチを押すと、スカイフックもスポーツになり、クルマがシャキッとする。どちらもいいけれど、ノーマルのほうがクルマの性格にあっている。 タイヤは19インチが標準で、路面が荒れていると、若干ゴツゴツする。ボディにドイツ車的な金庫感はないけれど、不満はない。むしろライブ感があっていいぐらい。 ワインディング・ロードのコーナーというコーナーを、トランスアクスルの初期型みたいにスッパスッパと切り捨てていく感じではない。前後重量配分49対51に象徴されるような、ノーズの軽さは感じない。パワー・ステアリングの設定は重くなっている。初期型が驚異的に軽くてよく切れるカタナだったとすれば、これは重い。スパッとは切れない。ターンインがムズカシイ。そのかわり、高速安定性はグッと増している。 文=今尾直樹(ENGINE編集部) 写真=コーンズ/Maserati S.p.A (ENGINE2008年9月号)
ENGINE編集部
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