【私の憧れの人】俳優・筒井真理子 戦地を「言葉」で切り拓いた緒方貞子さんのように、最期の瞬間まで生ききりたい
さまざまな分野の最前線で活躍し人々の憧れのまとである人にも、目標にし、励まされ、時には手を取り合った「憧れの人」がいる。人生を輝かせた「あの人への思い」をインタビューした。 【写真】「5フィート(約152cm)の巨人」と称された緒方貞子さん、イスラム解放戦線の基地に自ら乗り込む。他、「生ききる」ことの大切さを語った西田敏行さんなども
「5フィート(約152cm)の巨人」と称された緒方貞子さん
日本人女性初の国連公使であり、日本人初の国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さん(享年92)は、難民支援や国際協力のため世界中を飛び回った。 「強くてしなやかで、知性と行動力を併せ持つ立派なかたでした」と語るのは、緒方さんを尊敬してやまないと話す俳優の筒井真理子(64才)。NHK連続テレビ小説『虎に翼』では毒親役が話題になるなど、今年だけで8本のドラマに出演し、役柄になりきる演技が話題となっている。そんな筒井は、紛争地の人々のため各地をめぐり、世界中から敬意を集める緒方さんの姿に励まされてきた。 「緒方さんは超現場主義で、和平交渉のためフィリピン・ミンダナオ島奥地のイスラム解放戦線の基地に自ら乗り込み、拳銃を持った迷彩服の男たちが並ぶ中で交渉、防弾チョッキを着て内戦中のルワンダも訪問していました。闘うのではなく、相手の懐に入って対話で問題を解決しようとする姿から、ついたあだ名は『5フィート(約152cm)の巨人』。 よく『官僚主義はいけない』と語っておられたそうです。そうして紛争地に自らの足で飛び込み、現地の人のニーズを聞いて行動していた。その際も決して上から目線にはならず、現地のかたと同じ目線に立って『お世話になります』と、挨拶されていたとか。 ニュース番組で流れた、紛争地で見せる柔和な笑顔に魅せられて、ドキュメンタリーなどで彼女のことを知れば知るほど、日本にはこんなに素晴らしい、凜とした女性がいるのかと感動しました。もし役者になっていなかったら、緒方さんのように生きたかったと思うほど」(筒井・以下同)
紛争地で尋ねた「どうしてできないの?」
直接会うことはかなわなかったものの、筒井は緒方さんの数々の名言に憧れ、支えられた。中でももっとも大きな影響を受けたのは、シンプルな問いかけの言葉だった。 「緒方さんは紛争地で交渉する際、『どうしてできないの?』と尋ねることが多かったそうです。 難民の支援においても、予算や人員やさまざまな事情で実現が困難なことがたくさんある。でも、こうして“できないことが当たり前になっていないか”“できる方法をもう一度考えてみよう”と問いかけることで、原点に立ち返るきっかけになるのです」 「いま」を生きる人々のためなら、前例なんて打ち破っていいということを、緒方さんから学んだ筒井。 「緒方さんの言葉に『人間は、仕事を通じて成長しなければいけません』というものがあります。私も緒方さんの言葉を思って“60代はこうあるべき”という前例にとらわれず新しい役を探していこうと自分を奮い立たせるんです。これまでのことを踏襲するのではなく、緒方さんのように、自分の力で変えていく。そんなパイオニアになりたいと思っています。 例えば、これまでなら男性が演じていたような無頼派の記者の役をやってみたい。日本のドラマや映画でももっと、過去に前例のないことができたらいいなと思います。恋愛ものも素敵ですが、社会派のものをもっと増やしてほしい。女性が泥臭く活躍するような作品が増えたら、日本の社会も少しずつ変わるかもしれないですね」 緒方さんは年を重ねてなお、晩年も精力的に活動した。筒井は、理想の人のその姿から「生ききる」ことの大切さを学んだという。 「緒方さんはきっと最期の瞬間まで、目の前にある一つひとつのことを丁寧にこなして、生ききったのだと思います。先日亡くなった西田敏行さんも以前、テレビ番組で“人生をたたむとは、人生を生ききること”と話していて、強く共感しました。私も緒方さんから学んだ通り、一つひとつのことを大切に、慣れることなく新鮮に受け止めながら、残りの人生を生ききりたいと思っています」 【プロフィール】 筒井真理子(つつい。まりこ)/早稲田大学在学中に第三舞台に在籍し、1982年に初舞台を踏む。2020年、映画『よこがお』にて、芸術選奨文部科学大臣賞、Asian Film Festival最優秀賞受賞。10月13日より1stシングル『お返事は、まだ』発売中。 ※女性セブン2024年11月14日号