「未来と過去に対する責任」長崎からノーベル平和賞授賞式に向かった地元紙記者に聞く
■「過去への責任」と「未来への責任」 佐々木:今回の演説の中で、田中さんは2つの大きなことをおっしゃったと思います。ひとつはもちろん「核兵器廃絶」です。もうひとつは、「国家の戦争責任」。戦争責任を取るのは「過去に対する責任」を取ること。核兵器廃絶は「未来に対する責任」を取るということです。田中さんは演説で、今でも1万発以上の核兵器が世界中にあって、そのうち約4000発が実戦配備されているということも指摘しています。 佐々木:一方で「核兵器があるから安全が守られているのだ」という主張ももちろんあります。「核のタブー」という言い方をノーベル委員会はしていますが、今は核の危機に瀕しています。使われる可能性が高まっているのです。本当に使われたらどうなるのでしょうか。局地的な戦争で済むのでしょうか。気候変動とかで世界中に影響を与えるでしょう。戦争だけではなく、事故も起き得るわけです。田中さんが記者会見で「核兵器で国民を守れるのか?守れない」と訴えていたことを、真正面から見るべきなのではないか、とこの6日間の取材で感じました。 神戸:「未来に対する責任」を私達は負っている。なるほど。 ■「スタートラインに立った」 神戸:長崎新聞の記事は、福岡でも読むことができるんですか。 佐々木:長崎県内でしか配達してないのですが、長崎新聞のホームページでノーベル平和賞関連の記事は全て無料で公開しています。全国紙とは一味違った視点で、長崎ならではの発信をご覧いただけます。 神戸:先ほど私は「80年もかかって遅すぎた」と感想を言いましたが、逆に今だからこそよかったのかもしれません。お元気なうちにちゃんとスピーチをしていただけたことの価値を感じました。最後に、取材した立場でお伝えしたいことがあれば。 佐々木:被団協の代表団は、現地でもあちこちで「おめでとうございます」と声をかけられたんですね。これまでの被爆者運動が国際的に認められたという意味でお祝いすべきだと思うのですが、これは半分の意味。やはり「核兵器廃絶」「核なき世界の実現」に踏み出せた時に、残り半分の「おめでとう」が言えるんじゃないか、と思います。今回の受賞は、「我々が被爆者から大切なメッセージを受け取って、次の世代と一緒に核なき世界を目指していく、ひとつのスタートラインに立った」と言いますか、「ここからまた新しく始まるんだな」という気がしています。 神戸:私達の「子供たちに対する責任」かもしれませんね。佐々木さん、どうもありがとうございました。
■◎神戸金史(かんべ・かねぶみ) 1967年生まれ。毎日新聞入社直後に雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。ニュース報道やドキュメンタリー制作にあたってきた。やまゆり園障害者殺傷事件やヘイトスピーチを題材にしたドキュメンタリー最新作『リリアンの揺りかご』は各種プラットホームで有料配信中。
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