「甲子園に行けなくても失敗じゃない」 中高で全国大会に出られなくてもプロになって、生き残って… 元盗塁王が球児に伝えたいこと
12年にパ・リーグ盗塁王 楽天アカデミーコーチ 聖沢諒さん(38)
パ・リーグの楽天は小学生、中学生、園児を対象にしたアカデミー(野球教室)を、拠点の仙台市を中心に東北6県を網羅して開いている。現役時代にパ・リーグ盗塁王や外野手の連続守備機会無失策記録をつくった実績のある聖沢諒さんは、14人いるコーチの一人として各地を回っている。 【写真】夏の高校野球長野大会開幕試合の始球式でマウンドに立った聖沢諒さん。124キロの球を投げて会場を沸かせた
引退した翌年から転身し、6年目。自身の現役時代を知らない子どもが年々増えていくこともあり、指導を進める上では「元プロ選手のプライドを捨てることが大事」と、フランクな接し方を心がける。子どもの日常生活に寄り添った話題から入って注意をそらさず、本題の野球に移る。
近年の子どもたちから、スポーツ離れやおとなしい性格といった傾向を感じる。球の握り方から伝え、肘を肩の高さまで水平に上げた状態から「球を持った手で頭をポンポン2度たたいてから投げよう」と、良いリズムで関節への負担を少なく投げるための一策などを伝授。長所を褒めて自信を持たせてから「ここはこうしてみたらどうかな?」と提案する。 現役の時から関心を持っていたアカデミーの活動。子どもの成長を手助けする喜びだけでなく、「例えば、投手や捕手出身のコーチの教え方から自分が学び、スキルアップしたいと思っている」。持ち前の野球への旺盛な探究心も刺激され、日々に充実感を覚える。
子どもたちの年齢が上がっていくと、進路選択に悩む姿に直面する。強い私立高校や中学生の硬式チームに入れないと、野球を諦めるかどうか思い詰める子どもがいる。 「そうじゃなくてもプロになれると言える経験が、自分にはある」。軟式野球部だった屋代中や松代高時代にかけて、全国大会はほど遠い舞台だった。それでも、自分が成長するためにどうすべきかをずっと考え、練習や普段の生活から見直した。環境を言い訳にせず、プロ選手になった。
「とんでもないレベルのところにきたと当時思った」と、プロ入り後も生き残るための挑戦は続いた。1軍選手たちの特徴を踏まえ、活路を見いだせるかもしれないと考えたのが、50メートル走6秒0の走力と洞察力を生かした盗塁。「足でベンチに入り、代走で途中出場した試合で回ってきた1打席を大事にして、レギュラーにたどり着いた」
第106回全国高校野球選手権長野大会が開幕した6日には、開会式の先導役と開幕試合の始球式を担当。「73チームのうち、72チームは甲子園に行けないことになるが、決して駄目とか、失敗じゃない。みんなで同じ方向を向いてやってきたことは、大人になってからも生きる」と話し、球児たちが実りの夏を迎えられるようエールを送った。