プロレタ リ アート──未来を担うファッションデザイナーたち
世界中の『GQ』編集部が、メンズウェアの未来を創造する新進気鋭のブランドやデザイナー16組を取材し、特集を組んだ。各国/各地域で活躍するファッションのフロントランナーたちに注目しよう。 【写真を見る】ディテールをチェック!
コンセプトは「労働を終えた布や古着をリ・アートする」。プロレタリアートの服づくりの魅力は、アップサイクルという先見性と技術に裏打ちされた独創性にある。デザイナーのPROTは言う。「目指しているのは、大量生産のプロダクトではなく一生所有したいと思ってもらえる一点物の作品」 ──ブランドを始めたきっかけは? 以前、僕と共同制作者のEは、同じアパレル会社で自社のB級品などをアップサイクルする事業に携わっていました。ただ、企業なので、工場で量産できることが前提。どんなにカッコいいと思ったデザインでも、再現性がないと製品化できないことが多くて、ジレンマがありました。また、自分が体調を崩して退職したこともあり、ふたりでやってみようと。 ──これまで「ウロボロス」「ミーム」「褸優縷頭(ルールス)」の3つのス タイルで作品を発表しています。それぞれの特徴は? 「ウロボロス」は、主に古着のデニムを素材に、日本の襤褸(ボロ)のように当て布やステッチで補強したり、またブリーチなどのビンテージ加工を施したりして、新しい服に生まれ変わらせるのがコンセプト。循環性、永続性、無限性などの意味をもつ「ウロボロス」と、日本の襤褸の意味を組み合わせたダブルミーニングです。「ミーム」は、歪なキャラクターなどの刺繍を施したシリーズで、ソースは、昔、アジアを旅して見たミッキーマウスをパクった看板や、ネットでバズっている、たとえばお母さんが娘の誕生日のために焼いたキャラクターのケーキなど。かたちが歪で色も変だけど、どこか味があるものが昔から好きで。それらを服に取り入れたら面白いかなというのが出発点。「褸優縷頭(ルールス)」は、自分たちの服に、ワッペンやスタッズを配して生き様やポリシーを表現しているような、昔のアメリカのアウトローなバイカーたちなどをモチーフにしたものです。 ──アップサイクルがベース。サステナビリティも意識していますか? その精神は大切だし、私自身、自分の分の食事は絶対に残しません。ただ、どんなにエシカルなものでも、味がおいしくなかったり、デザインが良くなくてすぐ飽きられて捨てられたら意味がない。数は沢山つくれなくても時間をかけて限界までつくり込み、一生使ってもらえるものをつくることで、結果サステナビリティにつながればいい、というのが本音です。 ──ビンテージ加工を軸にしつつも、単に古い風合いを表現するだけではない独創性も魅力だと思います。 僕が古着に惹かれるのは、そこに着ていた人のオーラを感じるから。自分たちのデザインも、素材の古着に対し“この服はどんな人が着ていたのか”と詳細なストーリーを考えることから始めます。そのうえで様々なテクニックを駆使し、新しいオーラを服にまとわせる。特殊メイクに近いのかもしれません。加えて言えば、本当にビンテージなのか、そうでないのか、見た人が混乱するような表現性も大事にしていることです。 ──エイサップ・ロッキーらに愛用され、海外でも人気を博しています。いっぽうでコピー商品も出回っているようですが。 だからこそ、自分たちの技術力を大切にしたいし、研究もしています。 刺繍も色落ちしてボディに馴染むように天然素材を使ったりしています。ステッチも、アメリカ的なミシンワークやヨーロッパ的なダーニングステッチなどをテーマに合わせて組み合わせたり。簡単に真似できないことをやっている自負もあります。 ──ヨウジヤマモトやグッチとのコラボも話題に。今後のビジョンは? まずコラボレーションをしてよかったのは、新しい見せ方ができたこと。 基本はオーダーメイドで、ショーをやるわけでもない。モデルの起用やスタイリングなど、自分たちにはないものが見られて新鮮でした。次があるなら、ブランドの歴史やデザイナーの哲学をより深掘りし、作品に反映させたい。あと、僕らの技術は服以外にも応用できると思っています。 自分たちの好きなアートやインテリアにも展開できたら。 PHOTOGRAPH BY YASUTOMO EBISU WORDS BY MASANOBU MATSUMOTO