広沢・名古屋市長「秀吉にちょっと家康」型の柔軟路線 議会反応は
戦国時代の三英傑にたとえるなら豊臣秀吉にちょっと徳川家康を足した感じ――。11月25日の就任から間もなく1カ月を迎える名古屋市の広沢一郎市長(60)は自身の政治手法をこう分析し、河村たかし前市長とは異なる柔軟路線を展開している。これに対し、市議会は「分断が続いた(河村氏との)イレギュラーな期間をどう総括し、我々と向き合っていくのか注視したい」と今後の対応を慎重に見定めていく構えだ。【真貝恒平】 【写真まとめ】河村氏→広沢氏 政策への姿勢の違いは? 今月5日の市議会11月定例会の本会議。広沢市長は市長就任後、初めて個人質問の答弁に立った。公約に掲げた名古屋城天守閣の木造復元に伴い焦点となっている小型昇降機の設置について「江戸情緒を損なわない範囲で、できる限り上層階までへの設置に挑戦し、史実性とバリアフリーを両立させたい」と述べた。 前市長の河村氏は「史実に忠実な復元」へのこだわりから、小型昇降機は「1、2階まで」と主張してきた。これに「最上階まで」と要望する障害者団体が反発。2023年6月に開かれた天守閣のバリアフリーを巡る市民討論会では、一部の市民が障害者に対する差別発言を行うなど市民の分断も起きるなか、広沢市長は定例記者会見で「反省すべきところは反省し、改めて真摯(しんし)な姿勢で課題と向き合う」と強調する。 ◇注目される大村知事との関係 注目されるのが、河村氏と「犬猿の仲」だった大村秀章愛知県知事(64)と広沢市長の関係だ。 愛知県肝いりで23年から実施している「県民の日学校ホリデー」。毎年11月27日の「県民の日」前までの1週間(11月21~27日)の間の平日に、県内各自治体が1日を選び学校を休校日にする施策だが、河村氏は平日が休みになると仕事を休めない家庭の負担が増えるとし「名古屋は愛知県の植民地ではない」と反発した。最終的に23年度は名古屋も参加することになったが、24年度は県内で唯一参加を見送った。 今後の学校ホリデーへの対応を問われた広沢市長は「関係各機関の意見を参考に方向性を考え、県との共同事業においてしっかり歩調を合わせていきたい」と参加に含みを持たせる。 愛知県と名古屋市は今月5日、27年に開かれる国際会議「アジア開発銀行年次総会」を共同で誘致すると発表。そろって記者会見した広沢市長と大村知事は、連携して国への要請活動などを行っていくことを明らかにした。2人は会見後、笑顔で握手を交わした。 ◇かつて「河村包囲網」を敷いた議会は 河村市政時代、市議会は自民、旧民主、公明などの各党が「河村包囲網」を敷き、対立を続けてきた。河村氏が後継指名した広沢市長が誕生すると、最大会派の自民市議団はさっそく、「政務調査会新市長公約検証プロジェクトチーム」(自民党市議団政調PT)を発足。広沢市長の全公約を検証するのが目的で25年度当初予算案の策定に合わせ、来年2月までに答申をまとめる予定だ。 市議会で広沢市長の唯一の応援団となるのが、河村氏が代表を務める地域「減税日本」の市議会会派・減税日本ナゴヤだ。だが、減税日本が日本保守党と友党関係を結び、河村氏が同党共同代表に就任したことに反発した会派の1人が11月に離団。また、既に会派を離れていた2人が自民党市議団に加入した。同会派は昨年4月の統一地方選直後は14人が所属していたが、1年半の間に6人減の8人となり、第4会派に甘んじている。 ◇「争いなくし天下泰平」市政運営に自信 こうした状況の中、広沢市長は来年2月の定例会に向け、公約に掲げた個別の政策について準備を進めている。16日の定例会見で、戦国時代の三英傑である織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の中で自身がどのタイプか問われた広沢市長は「明らかに信長タイプではない」と笑いを誘い、冒頭の発言となった。 広沢市長は「河村さんは信長だろうが、信長を支えた秀吉の天下の取り方は信長流ではなかった。家康も秀吉を受け継ぎつつ、争いをなくし、天下泰平の道を開いた」と持論を展開し、市政運営に自信をのぞかせた。 広沢市長の船出を市議会はどう見ているのか。河村氏と対立してきた会派の市議の一人はこうけん制する。 「広沢さんはここまでは対話を重視し、平穏な船出となっているが、市長選で河村氏の政策や理念を『丸ごと継承する』と主張してきたからね。分断が続いた(河村市政下)15年のイレギュラーな期間をどう総括して議会と向き合っていくか、お手並み拝見だ」