B'zは鎧、自分は普通、他人に嫉妬することもある――デビュー35周年、本人が語る「人間・稲葉浩志」
その稲葉も、中学に入ると夢中になるものを見つける。音楽だ。兄の影響で聴きはじめ、初めて買ったアルバムはキッスの『ラヴ・ガン』。そして高校に進学すると、学園祭で初めてバンドのボーカルを体験する。 「同じ軟式テニス部の友達のギターがとても上手で、文化祭に彼を出してあげたいと友達とも話して、寄せ集めのメンバーでバンドを組んだんです。そのときのボーカルに、たまたま僕がなったんです。みんなで一曲を練習して演奏して合わせることが、すごく楽しかったですね。文化祭では、僕が練習しすぎで声が全然出なくて、悔しい思いをしたんです。でもやっぱり、バンドが楽しかったので、そこからは趣味じゃないですけど、バンドは何かしらやっていましたね」 優等生として過ごした学生時代。そこにコンプレックスを抱えていた部分もあるという。 「ずば抜けて何かができたわけじゃなかったんです。特に学生時代だと、そこそこなんでもできる子より、ちょっと突っ張っている子とか、やんちゃな子とかが人気があるじゃないですか。そういう人たちのほうが目立っていたし、何か悪さをしているような友達が先生に気に入られたりするのも見ていたし。だから、そういう『とんがり』がない人間だなって、ずっと自分で思っていました」
教師にならなかった自分に親は泣いていたと思う
高校卒業後は、横浜国立大学に進学。教育学部で教師を目指したが、実際に大学生になってみると、稲葉に変化が起こった。 「髪がむちゃくちゃ伸びました。おしゃれな美容院が多すぎて、店に入るのを躊躇して髪が切れなかったんです。それで最初に帰省したときには、もう親から悲鳴が聞こえましたね」 大学時代もバンドを同郷の友人たちと結成。そして、教育実習にも行くなかで、進路について葛藤が生まれた。 「素直な気持ちとしては、やっぱりバンドが楽しかったんです。自分の歌に対しての周りの評価も良かったし、多少の自信がついてきたと思うんですよね。そういうこともあって、当初の自分の目標が揺らぎはじめて、たぶんずっと自問自答している日々だったと思います。『おまえが本当に好きなのはどっちなんだよ』って。教育実習を途中でやめてしまったことで、自分で歌のほうへ傾けていったんじゃないかと思うんです」