「許されるなら、戦死した夫の後を追いたい」若くして3人の子のシングルマザーになった女性の絶望 #戦争の記憶
「主人は幸福でございました」
「よく働いて下さいました。たとえ敗戦の悲しい現実に直面しても、主人は力の限り働いて兵士としての本分を尽し、男らしく御旗の下に散って逝ったのでございますもの。 生者必滅会者定離は世の慣でございます。 立派な勲を立てて散りし人に恥じない様、残されし3人の子を育んで参りたいと存じます。 遠い親類の者が6月なかば、沖縄より復員致して参りました。片眼を国に捧げて帰って参りました。 一日、面会に参りまして、種々のお話を聞いて参りました。本当にほんとうに、筆舌に尽し難い苦しみを越えて、この悲しい敗戦の故国に帰り来し人の心、お察し申し上げ泣きました。 主人の話も出まして、伊東隊は覚えて居りましたが主人は解りませんでした。 伊東隊長殿は、大変立派な方だと申して居りました。 主人は幸福でございました。お話を聞き、しみじみそう思いました。 生前の御礼、改めて厚くあつく申し述べさせて戴きます。 新聞の発表になりました伊東隊の感状、切り抜いて大切にしまって有りますの。沖縄戦の新聞記事も、心打たれたのは取ってございます。子供達が大きくなって、父の死を理解出来る様になりました日の心の糧としてやりたい、又、私自身、心の慰めでも有ります」
死よりも苦しく辛い心境
「敗戦の厳しい現実は、大切な人を失いし遺族の心を、兎に角、荒ませて居ります。同じ境遇の私が、周囲にそうした人々の姿を見る時、悲しさに張りさけそうな胸を押さえて、「何卒、荒まないで下さい。お国の為に命を捧げた、いとしい人の心を考えてあげましょう」と言わずには居られません。 本当に生き難き世に、弱い女の身で、幼児かかえ生き抜いてゆく苦労は、死よりも苦しく辛うございます。 温かいいたわりと、強い励ましがどれ程大切な事か、その境遇になって、しみじみ覚りました。何卒隊長殿にも、時折はこうした悲しい心の遺族の人々を慰めてあげて下さいませ。 乱筆にて取り止めない事のみ書きました。何卒ご笑覧下さいませ。 先ずは遅ればせながら御礼迄。なお、主人の写真、焼き増し致してお送り申し上げます。甚だ恐れ入りますが、隊長殿のお写真も1枚戴きましたなら、何よりの喜びでございます。主人の写真と共に長く保存いたし置きたい心でございます。 末筆ながら、くれぐれも御身大切にお暮し下さいます様、お祈り申し上げます。 松倉ヒデ子拝 伊東孝一殿」 *** 最愛の夫を亡くした哀切な心情と現況を、伊東大隊長への礼状にしたためた妻・松倉ひでさん(享年51)。 「この手紙はつらかった。どう謝罪すればいいのか、どう返信すればいいのか……。心底、戸惑ってしまった」