[MOM4758]川崎F U-18MF楠田遥希(2年)_大一番で口を衝いた「無意識の檄」。進境著しい新米センターバックが好守備で勝利に貢献!
[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ] [6.30 プレミアリーグEAST第10節 川崎F U-18 2-1 青森山田高 Ankerフロンタウン生田 Ankerフィールド] 【写真】「マジで美人」「可愛すぎてカード出る」現地観戦した女子アナに称賛集まる 最初は不安もあったけれど、プレミアリーグの猛者たちと対峙しているうちに、少しずつその景色にも慣れつつある。経験の浅いポジションであったとしても、試合に出ているからには言い訳なんて通用しない。自分にしかできないことだって、必ずあるはずだ。 「最初は簡単なプレーばかりを選んでしまって、チャレンジすることができなかったんですけど、回数を重ねていくうちに自分らしいプレーを出すことができているので、これからもどんどんできることを増やしていきたいと思いますし、少しずつセンターバックに慣れていっている部分は多いかなと思います」。 本職のボランチからのコンバートを受けて、川崎フロンターレU-18(神奈川)の最終ラインで存在感を高めつつあるセンターバック。MF楠田遥希(2年=川崎フロンターレU-15出身)が真摯に積み重ねてきた日常の成果が、難敵相手の一戦で勝利へ直結したことに疑いの余地はない。 青森山田高(青森)と対峙したプレミアリーグEAST第10節。ストロングのハッキリした相手との一戦にも、楠田は今季に入ってから本格的にトライしているセンターバックとして、スタメンでピッチへ送り出される。 「相手が普段のチームより前に蹴ってくるということで、一発でやられないようにというのは常に頭の中に入れていましたし、全部のボールに反応しないとセカンドも拾えないので、そこは結構大変なところもありました」。ロングボールを駆使してくる相手に対して、常に万全の準備を整えながら、高い集中力を保ち続ける。 ボールを持つ時間は圧倒的に長かったが、それは必ずしも試合の優位性には繋がらない。「無理して縦パスを入れたりして、相手のスイッチが入るのは避けたかったので、焦れずにタイミングやチャンスを見ながらやるというのはチームとして意識していました」。あわよくば引っ掛けて、カウンターを繰り出そうという青森山田の狙いは明白。前半は慎重なゲーム運びで、静かな45分間がスコアレスで過ぎていく。 迎えた後半。全体の流れに変化が訪れていることは、楠田も敏感に察知していた。「後半は相手も前から来て、浮いている選手とか出てきたので、前半よりは“Uの字”に回す場面は少なくなったと思います」。相手のズレを突くような形での攻撃も増加し、サイドアタックから2点を先行。以降は明らかに勢いを強める相手の猛攻を、最終ラインで跳ね返していく。 終盤にはセンターバックに約1年ぶりの公式戦復帰となったDF山中大輝(3年)が入ったことで、楠田は本職のボランチに入ったものの、セットプレーの流れから1点を返されると、そこからは青森山田が繰り出す怒涛のロングスロー攻勢にさらされ続ける。 経験も豊富なDF柴田翔太郎(3年)はみんなで耐えていた時間帯で、あることに気付いたという。「最後の方の時間で遥希が『やるぞ!』と言っていたんです。『大丈夫!大丈夫!やれよ!やれよ!』と言っていて、いつもはそんなことは言わないんですけど、それが見られたので『ああ、今日は勝てるな』と思いました」。 本人はあまりよく覚えていないという。「『絶対にここは落としたくないな』という試合だったので、自然とそういうふうに声が出たのかもしれないです。ここで勝ち点3を絶対に獲って、流経との差を詰めたかったですし、連勝して良いチーム状態でクラブユース(選手権)に入りたいというのもありましたね」。勝利への欲求が、無意識の檄という形で口を衝いたということだろうか。 アディショナルタイムも5分を過ぎると、ようやく試合終了のホイッスルが聞こえてくる。「最後はやっと終わったなと。もう“ロングスロー祭り”みたいになっていましたし、勝てて終わったのでホッとしました」。スタメンフル出場を果たし、守備の安定を司った楠田の表情にも、ようやく笑顔の灯がともった。 そのコンバートはいわゆる“チーム事情”だった。山中は昨夏に負ったケガの影響で長期離脱中。キャプテンのDF土屋櫂大(3年)も代表活動や負傷で不在の時間が続いた中、ボランチを本職としている楠田にセンターバックとして白羽の矢が立つ。 「時々センターバックの選手がいなかったらやるみたいな感じでしたし、中学校の時もたまにやるぐらいで、基本はボランチをやってきました」。後ろに控えるのはゴールキーパーだけ。失点に直結するようなポジションだけに、不安は小さくなかったが、任されたからにはもうやるしかない。 「まずは『シンプルにやる』ということを意識して、あとはまだ足りないんですけど、後ろからコーチングしたりすることは、ボランチの時よりももっと意識してやるようにしていました」。手探りで始めたセンターバック。それでもスタメンで起用された最初の3試合で3連勝を飾ったことで、少しずつ立ち姿にも自信が滲み始めていく。 「空中戦はもともと得意ではなかったんですけど、センターバックをやることで練習する回数も増えて、少しずつヘディングも良くなってきましたし、ゴール前の守備でも足を合わせたりできるようになってきて、そういうところはボランチだけしかやっていなかった時と比べたら、向上してきたのかなと思っています」。プレミアの舞台で経験を積み重ねていくことで、本人も新たなポジションで成長している実感を掴みつつあるようだ。 とはいえ、“本職”への想いももちろん依然として持ち合わせている。センターバックでのプレーは「守備面では『この経験がボランチでも生きるかな』という想い」が基本的なマインド。自分の立ち位置も実に冷静に、客観的に、捉えている。 「櫂大くんとか大輝が帰ってきたら試合に出る時間は少なくなると思うんですけど、練習でも全然成長できると思いますし、周りには上手い先輩がいるので、シーズンを通してそこからいろいろなものを吸収して、来年はチームの中心になって頑張れるようにしていきたいなと思っています」。 謙虚すぎるようにも思える言葉に、穏やかな性格も垣間見えるが、長橋康弘監督はその確かな成長をしっかりと認めている。「彼は中盤の選手で、急遽チーム事情でセンターバックに入っても、本当に良くやってくれていますし、彼自身もまたボランチに帰った時に、今センターバックでやっている経験は、かなり大きいものになるということで前向きに取り組んでくれていますので、一番成長している選手かなと思っています」。 ビルドアップを主導できる足元の技術と、身に付けつつある対人の強さでチームに1本の軸を通す、進境著しい新米センターバック。楠田遥希のチームにおける重要性は、日を追うごとに増し続けている。 (取材・文 土屋雅史)