日本選手権の800ｍでシニア選手を抑えて圧勝した17歳の落合晃。パリ五輪参加標準記録を目指した果敢なアタックが印象的だった photograph by Asami Enomoto

　パリ五輪に出場する陸上競技の日本代表選手が続々と決まるなか、男子の中距離種目にはいささか寂しい印象が残った。 【写真】「大腿四頭筋がエグすぎる…本当に中距離選手？」17歳で日本チャンピオン・落合晃の衝撃のフィジカル…久保凛、ドルーリー朱瑛里ら日本選手権で活躍した高校生たちも見る（50枚超） 　だが、憂うことはないかもしれない。先の日本選手権では超新星が強烈な光を放った。 「私のなかで印象に残っているのは男女800m。どちらも高校生が勝ったということで、若い力が出てきたことは非常に頼もしく思う」 　中長距離・マラソンの強化を担う高岡寿成氏(日本陸連強化委員会シニアディレクター)が、日本選手権の総括会見で高校生の力走を称えていた。16歳で女子800mを制した久保凛(東大阪大敬愛高)は、サッカーの久保建英のいとことしても広く知られるところだが、落合晃(こう)(滋賀学園高)の与えた衝撃もなかなかだった。

「17歳が日本選手権優勝」の衝撃

　大粒の雨が降り頻るなか行われた男子800m決勝は、落合の強さが際立っていた。 　日本記録保持者の川元奨(スズキ)らが相手でも、先頭を一度も譲ることなく、最後は1秒以上の大差を付けて初優勝を飾った。 　その強さ以上に驚いたのは、フィニッシュ後のリアクションにあった。初めての日本一にもかかわらず、全く喜ぶ様子がなかったからだ。 「シニア選手に勝ち切れたことはもちろんうれしいんですけど、それ以上に1分44秒70を切れなくて……。パリの舞台で戦うことが目標だったので、そこに行けないことが本当に悔しいです」 　1分44秒70とはパリ五輪の出場資格を得るために必要な参加標準記録のこと。決勝のタイムは1分46秒56と、狙っていた記録に届かなかった。 　フィニッシュ後には地面を叩いて悔しさをあらわにし、トラックに座り込むと両手で顔を覆っていた。 　落合は、本気でパリへの切符を狙っていたのだ。 　落合は昨年の北海道インターハイで高校2年生にして大会新記録をマークして高校日本一に輝いている。その時の1分47秒92が今シーズンを迎える前までの自己記録だった。 　もちろん高校生としてはとてつもなく速いタイムだ。だが、パリ五輪の参加標準記録までは3秒以上の開きがあった。 　それでも専門誌などのインタビューでは「パリ五輪を狙いたい」と答えていた。4年後のロサンゼルス五輪の間違いなのではないか、と思わず目を疑ったほどだ。 　だが、その言葉は本気で発したものだった。今季の落合の成長率には驚くべきものがあった。 　4月のU20アジア選手権では、やはり先頭を明け渡すことなく、金メダルを獲得。その6日後、5月3日の静岡国際では、連戦の疲れをものともせず、シニアの選手を相手に勝利を収めた。 「(静岡国際には)強い選手が集まるので、日本選手権に合わせるためにチャレンジという意味で走りました。去年まではラスト300mで被せられてからは動かなかったんですけど、今回はラスト100mで切り替えられる余裕度があった」 　このように手応えを口にした一方で反省点をも見出していた。 「自分の持ち味である積極的なレースは変えずに、ラストのキレをもっと磨かないと、これ以上のタイムは出ないのかなと思う」 　自己記録を1秒以上更新し、従来の高校記録・U20日本記録をも上回って1分46秒54まで記録を伸ばしたものの、目標とするタイムまではまだ約2秒の開きがあった。 　その後はインターハイ近畿予選などを経て、6月末の日本選手権に臨んだ。