日銀が金融政策の維持決定、植田総裁のハト派的発言受けて円安加速
田村氏は利上げ提案
田村直樹審議委員は今回会合で政策金利の維持に反対し、0.5%程度への引き上げを提案したが否決された。全員一致の決定にならなかったのは追加利上げを決めた7月会合以来で、政策維持への反対は昨年4月の植田体制発足以降では初めて。
田村委員は「経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいる」とし、利上げの議案を提出した。銀行界出身の田村氏は9人の政策委員の中で最もタカ派と位置付けられ、2026年度までの日銀の見通し期間の後半には1%程度まで利上げしておく必要性を9月の講演で主張していた。
みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは、今回の決定に違和感はないと語った。その上で、田村氏からの利上げ提案は「主流派の意見とは違うかもしれないが、ボードメンバー内で次の利上げが近づいているという見方に傾き始めていることを示唆している可能性がある」と指摘。「追加利上げは限りなく近い。恐らく1月会合」との見方を示した。ただ、状況次第では3月の可能性もあるとみる。
ブルームバーグのエコノミスト調査(5-10日実施)では、追加利上げ時期の予想は来年1月が52%、12月は44%だったが、その後の報道を受けて今月は見送りとの見方が市場に広がっていた。
日銀の声明文では、景気の現状について「一部に弱めの動きも見られるが、緩やかに回復している」との判断を維持。消費者物価の基調的上昇率については、見通し期間の後半に2%の物価安定目標とおおむね整合的な水準で推移するとの見方を据え置いた。
多角的レビュー
日銀は今回会合で、昨年4月の植田総裁の就任直後から分析を進めてきた金融政策の多角的レビューの結果を取りまとめて公表した。過去25年間の金融緩和策の効果と副作用を点検したレビューも活用し、物価目標の実現へ経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していくとしている。
レビューでは、マイナス金利政策やイールドカーブコントロール(長短金利操作)、大規模な資産買い入れなどの非伝統的な金融政策について、経済・物価を押し上げる効果を発揮したと分析。一方で、定量的な効果は不確実だとし、「短期金利操作の完全な代替手段にはなりえず、可能な限りゼロ金利制約に直面しないような政策運営が望ましい」としている。