「サイコパス」の冷徹さは何らかの役に立つのか 「うまく機能しているサイコパス」に向いた仕事
横暴に振る舞う上司、不正を繰り返す政治家、市民を抑圧する独裁者。この世界は腐敗した権力者で溢れている。 では、なぜ権力は腐敗するのだろうか。それは、悪人が権力に引き寄せられるからなのか。権力をもつと人は堕落してしまうのだろうか。あるいは、私たちは悪人に権力を与えがちなのだろうか。 今回、進化論や人類学、心理学など、さまざまな角度から権力の本質に迫る『なぜ悪人が上に立つのか:人間社会の不都合な権力構造』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。 【写真でみる】なぜ政治家は堕落し、職場にサイコパスがはびこるのか? 進化論や人類学、心理学によって読み解く1冊
■赤ん坊を殺すか全員が死ぬかという究極の選択 大学で哲学の入門講座を取った人なら誰もが、次のような筋書きについて考えたことがあるはずだ。 あなたの村の人が全員、過激派ゲリラから身を隠している。ゲリラたちは、大人も子どもも見つけ次第殺害するためにやって来た。あなたは見つからずに済み、誰もが生き延びられそうだという、かすかな希望の光が差してきた、まさにその瞬間、1人の赤ん坊が泣きだす。 人々は必死で落ち着かせようとするが、何をやってもうまくいかない。もしその赤ん坊が泣きやまなければ、村人は皆殺しにされる。あなたは他の人々全員を救うために、赤ん坊を窒息させるだろうか?
この苦渋の選択も、合理性と私たちの最も根深い道徳的本能とを競わせる。もし赤ん坊を窒息させなくても、その子はやはり死ぬだろう――たんに、あなたではなくゲリラの手にかかって。 もしあなたが赤ん坊を殺せば、他の全員が生き延びるが、あなたが自らの選択でその赤ん坊の生命に終止符を打ったことになる。 この耐え難い筋書きによって、私たちは痛烈に両断される。赤ん坊を窒息させるという人もいる一方、そのような邪悪な行為は思い描くことすらできない人もいるだろう。
だが、サイコパスは、どちらにするべきか、そこまで悩まない。彼らは、あまり思いやりがなくて実利的な傾向にあり、邪悪でも自己の利益に適う行動を選ぶことが、調査によってわかっている。 自らを救うために何か不埒(ふらち)なことをする段になっても、サイコパスはそれほどためらわない。 この発見は、憂慮するべき結論を示唆している。現代社会では、道徳的な内省とは無縁でいるのが得策なのかもしれない。 道徳意識を持たないCEOや大統領や首相が出てくるかと思うと、ゾッとする人もいる。