がんになっても安心して働ける社会を―「ネクストリボン2024」3年ぶりリアル開催
◇第1部 パネルディスカッション「増える就労世代のがん、企業はどう対応すべきか」
続いて行われたパネルディスカッションでは、就労世代のがん患者が増えるなかで企業は患者とどう向き合い、支援すべきかについて実例を交えながら語り合った。発言要旨を紹介する。 *コーディネーター:上野創さん(朝日新聞社会部記者)
竹田敬治さん(テルモ株式会社アドバイザー人事部HRビジネスパートナー)
テルモの健康経営方針4項目のうち、2番目に「がんの早期発見、早期治療、職場復帰」がある。2017年1月、がんになった社員を応援しようと「がん就労支援制度」をスタート。それまでは在宅や時短勤務など多様な働き方を認める運用で就労をサポートしてきたが、正式な制度とすることで会社が就業と闘病の両立を応援するというメッセージを送ることができた。 法定の定期健康診断の100%受診は当然、有所見者に対する精密検査も100%受診を目指し、就業時間内に健康保険組合の負担で二次健診に行ってもらうなどして重症化予防に取り組んでいる。 患者は周囲に迷惑をかけることが心理的負担になってしまうが、就労支援を制度化したことで「負担に感じる必要はない」という会社の姿勢、さらには患者を仕事面でサポートする職場の同僚への感謝を示すことができた。 がんになりこの制度を利用した社員からは「治療に臨む期間と就業できる期間の繰り返しになるが、働くことがエネルギーになる。職場のメンバーと触れ合うことで気持ちが切り替えられ、励みにもなる。会社が応援してくれる姿勢も伝わり、制度がありがたかった。」などの声があった。 「大切なのは、がんになった社員を中心に、会社と職場、上司と社員・家族の精神的距離感を縮めること。それにより本質的なコミュニケーションが取れるのではないか。会社は、がんになった社員への配慮は当然行うべきで、社員を支える人へのサポートまで考えて対応することが、がんになった社員への支援の本質だ」と、まとめた。
谷口正俊さん(株式会社ワールディング代表取締役社長)
多文化共生社会を目指し海外人材の採用や活躍支援を業務としている。従業員は外国籍社員が5カ国64人、60歳代以上が12人で男女比は4対6、管理職の男女比は5対5と多様性に富んでいる。さまざまなライフステージにおける活躍を支援していこうと創業以来、産休、育休、介護休暇、病気療養休職からの復帰率はいずれも100%を継続している。休職しても再び迎え入れるのが当たり前という社内文化を徹底。そうした体制が整っているので、社員はがんになっても安心して治療に臨めたとの声を聞いた。 社員は就業6カ月を過ぎたら全員、社会保険制度に上乗せして医療保険、所得補償保険、業務災害保険に加入してもらう。これによって休職期間中も収入が減ることなく治療に専念できる。 経営者の立場から考えると、どのような理由であれ休職後も働く意欲を支援することは経済合理性が高い。少子高齢化が進み労働力が不足している時代に、新しく志ある人を採用しても業務に必要な知識を身につけてもらうためには2~3年かかる。一方で、どのような理由であれ3年を超えて休職するケースは経験したことがない。そうであれば、働く意欲を支援したほうが“得”ということになる。 「育休を取得した男性社員が『休むことで仕事への渇望が増した』と言い、復職後は非常に集中して仕事に取り組んでいる。ありとあらゆる人を支援することが、企業にとっても業績に直結するのではないか」と、がんになっても働く人を支援することの効用を述べた。