「裕福な老夫婦」がこっそり火葬炉に入り、自ら点火…かけつけた警察官が仰天した「壮絶死」の哀しい理由
ふたりでずっと一緒にいたい
大変だった介護生活にもわずかだが余裕ができ、好転するかに思えた。しかし、運命の歯車は残酷だ。ここでさらに悪い出来事が重なってくる。 今度は旦那さんの身体にも不調があらわれたのだ。もともと患っていた痛風が悪化し、頻繁に痛みの発作が起こるようになった。やがて庭木の剪定をしているときに倒れ、自分も入院することになってしまった。 このときの入院が、不幸な選択をするきっかけになったのかもしれない。どこへ行くにもいつも一緒だった奥さんだが、入院生活のあいだは自分のそばにいない。妻はどんどん認知症が進んでいく。もう夫である自分のこともあまり記憶していないみたいだ。そんなときに自分ももし病状が悪化してずっと入院生活になってしまったら、夫婦は引き裂かれてしまう……。 そんな考えに陥ってしまう気持ちもわからなくはない。唯一心を許していた奥さんである。 離れ離れになってしまうくらいなら……。 記憶にも残らなくなって、心も離れてしまうくらいなら……。 ふたり一緒に、虹の橋を渡ろうか。 そんな悲壮な決意に突き動かされてしまったのかもしれない。旦那さんは持っていた土地などを市に寄付すると、遺言書に書いた。それらの固定資産は、評価額で680万円にものぼる。しかし、市は「いずれも市として有効な活用策が見出せない」として、寄付を受ける権利を放棄し、旦那さんの親族に相続されることになった。 この事件は火葬場云々よりも社会問題として非常に関心が寄せられた出来事である。このようなことが繰り返されないことを願うばかりだ。 つづく記事〈「死産した赤ちゃん」をゴミ焼却炉に次々投げ込み…千葉県の産廃業者が重ねていた「前代未聞の悪行」〉では、火葬をめぐる悪質な事件をさらに紹介しています。
下駄 華緒(元火葬場・葬儀屋職員)