「世界の鉄道をAIで変革」日立の野望と現実 エヌビディアと連携、保守作業は劇的改善だが導入費用がネック?
その点において、エヌビディアが協業するのは日立だけではない。シーメンスやドイツ鉄道とも協業して車両・インフラの保守、エネルギー消費量の削減など運行効率の最適化に取り組んでいる。鉄道分野はビジネスチャンスの大きい市場だと考えているのだ。 日立レールグループのジュゼッペ・マリノCEOは「今後5年で、エイチマックスによる収入を日立レールの収入の全体の1割になるようにしていきたい」と話す。たとえば、2024年度における日立の鉄道事業の売上高は1兆円超えが予想されている。この数字を当てはめれば、5年後にエイチマックスがもたらす収入は1000億円ということになる。なかなかアグレッシブな目標である。
9月27日には、日立はコペンハーゲン市内の地下鉄を運営するコペンハーゲンメトロに対してエヌビディアの技術を活用したエイチマックスを提供する契約を締結したと発表した。日立はコペンハーゲンの地下鉄ネットワークの設計、製造、構築を請け負っており、同社の技術により無人運転システムが実現している。そこへエイチマックスも加わった。2025年末までに導入する計画だ。 こうした日立の果敢な動きに、イノトランスの会場にいた競合メーカーの社員は、「日立さんにかなり先行されてしまった。私たちは会場でメンテナンスビジネスの話ができないかもしれない」と、苦笑混じりに話していた。
だが、鉄道業界の未来が日立の思い描く通りになるとは限らない。エヌビディアとの協業によるエイチマックスの導入を阻む壁、それはコストの高さである。 日立はその金額を公表していないが、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは、6月に台湾で開催されたコンピューター国際見本市「コンピュテックス」の会場で、「(同社製GPUを導入すれば)スピードアップは100倍だが、電力は3倍、コストは50%増えるだけだ」と語っている。100倍のスピードアップは確かに魅力的だが、その能力をフルに使いこなさないと1.5倍のコスト増と3倍の電力費増が重くのしかかる。