日銀の自然利子率を巡る議論
日本の自然利子率は小幅マイナス、ターミナルレートは1%前後か
自然利子率の正確な計測は、どの中央銀行にとっても容易なことではない、と指摘する。さらに、過去30年にわって短期金利がほぼゼロに貼りついてきた日本では、短期金利の変動が経済に与える影響に関する情報を欠いているため、自然利子率の正確な計測はより難しいとの説明をしている。 自然利子率は経済の変動ではなく、経済の水準(一人当たり実質GDP成長率や潜在成長率)との関係で決まるものだとすれば、この指摘は必ずしも当たらないようにも思えるが、いずれにせよ、自然利子率の正確な計測が難しいことは確かである。 内田副総裁が講演で用いた資料には、日本の自然利子率についての各種試算結果が示されている。それらは-1.0%~+0.5%の範囲でばらついている。それでも平均値、あるいは中央値はマイナスである。 自然利子率が小幅なマイナスであるとして、予想物価上昇率が2%の物価目標水準に達し、日本銀行が実質政策金利を自然利子率の水準まで引き上げ、金融政策を経済に対して中立的にすると仮定すれば、その水準は2%弱となる。 しかし実際には、物価上昇率及び予想物価上昇率が2%で安定するのは難しいと筆者は考えている。この点から、日本銀行の政策金利の最終到達点、ターミナルレートは1%前後と見ておきたい。
自然利子率を巡る市場との対話
今後、ターミナルレートへの様々な思惑によって、長期金利が大きく変動する場合、日本銀行が自然利子率の水準について、何らかの示唆を示すことがいずれ求められるかもしれない。 自然利子率の正確な計測が難しいなか、市場とのコミュニケーション強化を図る手段として、展望レポートに政策委員の中長期的な政策金利の水準の見通しを示すことが一つの可能性として考えられるだろう。これは、米連邦公開市場委員会(FOMC)が行っている、いわゆるドットチャートを真似るものだ。 その場合、中長期的な中立金利水準の見通しを示し、市場との対話を強化することができる一方、各政策委員の独自の考えをそのまま掲載するものであるため、その水準の理論的根拠を示す必要がない、といった利点が日本銀行にはある。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英