【解説】梅田サイファーとは?メンバー詳細プロフィール、人気曲からトップを走るラッパー集団を徹底解剖
8月28日にニューアルバム『Unfold Collective』をリリースする梅田サイファー。『FLASH THE FIRST TAKE』で発表された「Rodeo13」や「韋駄天S**t」などからも感じ取れる、ヒップホップクルーとして飛躍を果たす彼らの進化と本質を考える。 【動画】梅田サイファー – Rodeo13 / THE FIRST TAKE ■梅田サイファーの名前の由来とは?13人で構成されるラッパー集団 梅田サイファー(読み:うめだサイファー) ・活動開始:2007年 ・メジャーデビュー:2023年3月29日 ・メジャーデビュー作品:アルバム『RAPNAVIO』 ・メンバー:R-指定 / KOPERU / KennyDoes / KZ / peko / KBD / ILL SWAG GAGA / コーラ / テークエム / teppei / Cosaqu / SPI-K / HATCH グループでもなく、ユニットでもなく、“サイファー”から始まったクルー。これが彼らの大きなアイデンティティである。サイファーとは主に路上などで輪になり、フリースタイルラップでセッションをすることを意味し、文字通り大阪は梅田駅の歩道橋で行われていたサイファーに自然発生的に集った面子から、梅田サイファーは生まれた。 そこでラップの技を磨いた“参加者”(“個人の集まり”であり、この時点では“メンバー”ではない)が、大阪を代表するMCバトル『SPOTLIGHT』や『ENTER』などを制し常勝集団として名を馳せ、KOPERUは18歳にして『B-BOY PARK 2009 U-20 MC BATTLE』で優勝(さらに最近も『戦極MCBATTLE34章』で優勝している)、R-指定は『ULTIMATE MC BATTLE』で3連覇を果たすなど、全国的にもその存在感を高めていく。 そして『See Ya At The Footbridge』など梅田サイファーとしてのリリースと並行し、それぞれがソロ作もリリース。Creepy Nutsのブレイクも追い風になり、2019年1月リリースの『Never Get Old』以降、活動を本格化。新木場スタジオコーストでのワンマンや、『THE FIRST TAKE FES』への出演などを経て、2023年リリースの『RAPNAVIO』でメジャーデビューを果たした。現在は13人で活動。 ■実力派で個性的。メンバー詳細プロフィール R-指定(読み:あーるしてい) ・所属グループ:Creepy Nuts 高校生で梅田サイファーに参加し、KOPERU、ぺっぺBOMB、たまこぅ、KennyDoesらと“コッペパン”を結成。また十代からMCバトルで頭角を表し、『ULTIMATE MC BATTLE』での3連覇や『フリースタイルダンジョン』への出演など、バトルMCとして頂点を極めた。DJ松永とともにCreepy Nutsとして世界的なブレイクを果たしていることはもはや説明不要だろう。 KOPERU(読み:コペル) ・所属グループ:HYPER TAMADE / THE POR / コペテツ 特徴的なハイトーンボイスとリズミカルなラップで、リスナーの音楽的快楽中枢を刺激し、一発で耳を掴む高いKOPERU。KEN THE 390のレーベルからソロ作「大阪キッド」をリリースするなど、梅田サイファーの中では比較的早くからシーンで注目を集める。ISSEIとの「HYPER TAMADE」など外部ユニットにも参加。最新作に『Demonstration』。 KennyDoes(読み:ケニーダズ) ・別名 ドイケン 梅田サイファーのリードオフマン。現行のヒップホップマナーやスタイルを貪欲に吸収し、幅広いアプローチのラップと、常に新しいスタイルを模索する作風が印象に残る。私立恵比寿中学に「Knock You Out!」を提供するなどプロデュースワークも。ソロ作に「KennyDoes」や、KZ and KennyDoes 「It\'s yours」など。 KZ(読み:ケージー) 梅田サイファーに最初期から参加しているKZ。ラップで聴かせる独特のハスキーな声質や、センチメンタリズムの強いリリシズムは、リスナーの内面や情念に訴えかけるような彩りと、エンパワーメントさせる強さを持っている。ONGR名義でトラックメイクも手掛ける。ソロ作に「GA-EN」「SADAKA」、ソロイベントに『SOLOIST』など。 peko(読み:ペコ) ・所属グループ:高槻Posse、黒衣 高槻Posseや黒衣のメンバーとしても活動し、梅田サイファー作品には「マジでハイ」から本格合流したpeko。ラップ、メロディ、DJ、トラックメイクと、梅田サイファーの中でも屈指のオールラウンドプレイヤーとしてメンバーをまとめる。黒衣として『ConverSession』などリリース多数。イベント『アマチュアナイト』も開催。 KBD(読み:ケービーディー) ・KBD a.k.a.古武道 ライミングに拘りが強い梅田サイファーのメンバーの中でも、日本語ラップの歴史に基づいた、タイト且つ独特の韻の踏み方と押韻に定評のあるKBD。韻を通して詩世界を飛躍させ、興味深く、また“面白く”出来るかという部分への集中度は他の追随を許さず、LITTLE(KICK THE CAN CREW)なども高い評価を与えている。ソロ作に『PLANET OF KBD』など。 ILL SWAG GAGA(読み:イルスワッグガガ) 構築性の高いリリックやタイトなライミングなど、ロジカルなラップを展開するメンバーが多い梅田サイファーの中において、予測不能な言語感覚から放たれるハイパーなラップで異彩を放つILL SWAG GAGA。「ビッグジャンボジェット」や「アマタノオロチ」などで聴かせるシャウトは唯一無二。ソロ作に『PEDIGREE』や『シャラマ』。 コーラ ・所属グループ:New Bonded 梅田サイファーの最年少メンバー。プレーンな声質も含めて『Unfold Collective』ではユーティリティプレイヤー的な動きで、個性の強いメンバーのラップを接着するような役目を果たしている。ロックに近い散文的なリリックの構成も印象的。バンド「New Bonded」としても活動。ソロ作に「Kick In The Back」など。 テークエム シーンを代表するプロデューサー:BACHLOGICがフルプロデュースを手掛けた『XXM』のリリースなど、シーンの内外から高い注目を集めるテークエム。その独特の“ねじれ”を持つリリシズムと、計算の上で生み出されるフリーキーなフロウとラップスタイルは、現在の梅田を牽引する存在である。ソロ作に『Communication』など。 teppei(読み:テッペイ) ・所属グループ:japidiot 、WeLaWorks、コペテツ 梅田作品にタフなヒップホップ性を注入するteppei。ブルースやファンクに通じるような肉体的な声質とボーカルスタイル、バウンス感のある発声や発音は、梅田作品に強いグルーヴを与え、その勢いをブーストさせている。ソロ作に「Religion II」など。KOPERUと共にラジオ『AuDee CONNECT』でパーソナリティも務める。 Cosaqu(読み:コーサク) 梅田サイファー作品での多数のトラックメイクに加え、エンジニアリングやミックス、そしてラップも手掛け、梅田サイファーの頭脳ともいえるCosaqu。メンバー関連作でもその手腕を振るっている。『Unfold Collective』は彼の新スタジオで綿密に設計されたという。ソロ作『COSMIC ATTACK VOL.1』が9月にリリース。 DJ SPI-K(読み:ディージェー スパイケー) 10代よりDJ活動を始め、遊びにいっていたという『アマチュアナイト』にDJとして参加。そして2019年から梅田サイファーのバックDJとして、ユニットに帯同をスタートさせた。現在は病気療養中でライブ活動は休止しているが、『Unfold Collective』でもシャウトアウトされてるように、その復帰を待望されている。 HATCH(読み:ハッチ) ・所属グループ:ジュマンジーズ テークエム、OSCA、tella、teppei、HATCHという、梅田サイファーの90年生まれ組で結成された4MC1デザイナーのユニット:japidiotのメンバー。梅田サイファー作品やグッズのデザインを手掛け、『Unfold Collective』収録の「BOW WOW」にはラップでも参加。デザインを手掛けるオリジナルショップに『Laugh’emall』がある。 ■梅田サイファーの魅力とは? 梅田サイファーの魅力、それは“ラップの魅力”と言えるだろう。様々なインタビューでも語られる通り、彼らは生い立ちやバックグラウンドをリリックで強調はしない(そういった部分はそれぞれのソロ作で明らかにしている)。 また、いわゆるストリートの流れや、同じ地元といった部分を共有概念とせずに、サイファーという“ラップを共通言語とする場所”で出会った彼らにとって、強調するべきは“背景”ではなく、各々の修練や発想、努力によって高めることができる“ラップスキル”だった。それは最初期から最新作に至るまで、一種の“ラップスキル至上主義”的な思想や方向性を作品に込めていることからも伝わってくる。 また、現在はクルーという形になっているが、ベースとして個の集まりである以上、梅田サイファーの作品上では“協合”すると同時に“競合”し、そのラップをぶつけ合う。そこでそのスキルは当然ながら高まり、それが作品自体の魅力と聴き応えに繋がっていく。 それぞれの音楽的な嗜好/志向性も当然ながら異なり、その個性が作品の中で綯い交ぜとなることから生まれるカラフルさや、ライブパフォーマンスを通じても伝わってくる、彼らが共通して持つ“開けた姿勢/マインド”によって、ハイスキルであることと、ポップであることを同居させ、“ラップという楽しさ”が伝わってくることが、梅田サイファーが多くの支持を集める理由でもあるだろう。 ■『THE FIRST TAKE』での「Rodeo13」 AwichやBE:FIRSTなどのプロデュースを手掛けるヒットメイカー:Chaki Zuluとの初コラボとなる「Rodeo13」。ダンサブル且つ構造としてはシンプルなトラックに、テークエム、R-指定、peko、KennyDoes、KOPERU、teppeiが参加。口の中で言葉を転がすような発声のテークエムと、「韋駄天S**t」の超高速ラップに刺激を受けたようなR-指定のスピットという対象性が印象的な冒頭パート。フックではpekoのメロディアスなリードにテークエムがハモリを重ねるなど、音感的にも心地よい。他の参加メンバーとの差異を形にするように低温でじっくりと16小節を蹴っていくKennyDoes、縦のリズムを強調するようタイトなラップを聴かるKOPERUに続き、梅田がリスナーを、そしてこれからのシーンを牽引するという意識を込めたteppeiのラップに、メンバーのチャントが被さり、楽曲はエンディングを迎える。 ■梅田サイファーが気になるならこの曲を聴け!人気曲3選 KING コント日本一を決める『キング・オブ・コント』の2022年のテーマ曲をリアレンジした一曲。原曲ではKOC決勝に出場するコントグループの名前を織り込み構成されたが、リアレンジではほぼ全てのリリックが書き直され、梅田バージョンとしてそれぞれが受け持つ4小節の中で、梅田の中での自分自身の存在意義を形にする。同番組の2023年度テーマ曲「BE THE MONSTER」は「BE THE MONSETRR」として再構築されニューアルバムに収録。 トラボルタスタム LIBROをトラックメイカーに起用した2019年1月に発表された「マジでハイ」で、リリースユニットとして全国区への名乗りを上げた梅田サイファー。BACHLOGICとのコラボとなった本作は、オーセンティックさが強かったそれまでの梅田サイファーとは一線を画す現在進行系のトラックによって、より彼らのラップスキルと個性が明確となった。『THE FIRST TAKE FES』でもパフォーマンスを披露。 スイッチ 「Odd Numbers」に続き、アニメ『ファブル』に起用された一曲。アルバム『RAPNAVIO』収録の「かまへん」などで聴かせる細かい小節回しを突き詰め、1~2小節で展開していくというタイトな集団芸を見せるファーストヴァースは、短い中でそれぞれの存在性を提示するために、鬼気迫る迫力でそれぞれがその一瞬に全力を注入。Cosaquの手掛けるトラックに流れるG-FUNK的なリードがその発色を更に強める。 ■進化し続ける梅田サイファーの最新情報をチェック 集団としての側面が強かった『RAPNAVIO』から、個としてを押し出した『Unfold Collective』。全国ツアーなどでそれらがどう結着するのかにも注目したい。 TEXT BY 高木 “JET” 晋一郎
THE FIRST TIMES編集部