社説:斎藤氏の再選 疑惑対応と信頼回復が急務
兵庫県知事選で、失職して出直し選に臨んだ前職の斎藤元彦氏が再選を果たした。 斎藤氏のパワハラなどの疑惑告発文書問題が発端となり、知事選では斎藤氏の対応や資質、約3年の県政、混乱からの立て直しが問われた。 当選後、斎藤氏は「謙虚の心を胸に刻んで頑張っていく。オール兵庫で県政を進める」と述べた。 だが、全会一致で不信任を決議した県議会や、相次いで「県政転換」を求めた県内市長との溝は深い。 庁内を含め、いかに関係を修復し、県民の信頼と県政の安定を取り戻せるか。険しく、重い責務を担う。 返り咲きで、斎藤氏の疑惑が晴れたわけではない。文書問題は県議会の調査特別委員会(百条委)による検証が続く。 これまでパワハラなどを多くの県職員が証言し、告発文書を「公益通報」として扱わなかったことの違法性も専門家が指摘している。プロ野球の優勝パレード経費を巡る不正疑惑も、解明されないままだ。 斎藤氏は真摯(しんし)に説明責任を果たし、百条委は丁寧に全容の解明と責任の所在を調べなければならない。 斎藤氏は政党や組織の支援がなく、当初は劣勢が予想された。過去最多の7人が立候補し、反斎藤票が分散した影響は大きい。斎藤氏の得票率は45%と半分に満たず、政党の後押しを受けた次点と3位の候補得票率の合計よりも下回った。 百条委継続中の議会による不信任が強引と映り、斎藤氏が手がけた行財政改革も一定評価された面があろう。 注目されるのは、SNS(交流サイト)を駆使したインターネット選挙の力である。 演説の動画や街頭活動の予定が次々と投稿され、勝手連的な動きにつながり、支持を急拡大したとみられる。 共同通信の出口調査では、60代以下の全年代で他候補を上回った。低投票の傾向が続いた若者層も取り込んだ。投票率は55%超で、2021年の前回選挙より15ポイント近くも高かった。 SNS重視の選挙活動は、今夏にあった東京都知事選で2位となった石丸伸二氏や、先の衆院選で躍進した国民民主党でも一定の効果を発揮した。 だが今回、ネット上では対立候補に関する誤情報や誹謗(ひぼう)中傷のほか、「パワハラは虚偽」といった言説が流れた。 斎藤氏と、批判する既存政党や県議会、マスコミという対立構図があおられ、無所属で出馬した候補者が選挙中に斎藤氏を応援し続けるといったこともあり、何が正しい情報なのか、戸惑う県民も多かったようだ。 疑惑対応の是非や県政課題の争点が明確にならなかったのは残念である。 メディアの報道も含め、重い問いかけを残した。