欧州の民意は環境問題よりも経済・移民対策、EUが国際社会をリードした環境規制も見直しや巻き戻しが必至
■ 大統領と首相のねじれがフランスの政策に与える影響 2022年5月に再選されたマクロン大統領自身の任期は2027年5月までであり、まだ3年近く残っている。しかし欧州議会選の結果に鑑みれば、今後の総選挙でマクロン大統領を擁する「再生」が議席を減らす展開は避けがたい。 一方で、ル・ペン氏を擁するRNは議席を増やすと予想される。RNの獲得議席数が過半に届くとは考えにくいが、他の右派政党と協力することで首相候補を擁立する可能性が高い。そうなった場合、いわゆる「コアビタシオン」(大統領と首相の所属政党が異なる状況)となることから、フランスは政策停滞に陥るだろう。 例えば、マクロン大統領が進めてきた年金改革や労働市場改革といった構造改革にブレーキがかかると予想される。こうした改革は、フランス経済の競争力向上のためには不可欠だが、国民の生活に痛みを強いるため、不人気だった。コアビタシオンとなれば首相が内政を担うため、新首相が国民の声に配慮し、路線の見直しを求めるのではないか。 マクロン大統領が肝いりで進めてきた外資誘致にも、ブレーキがかかるかもしれない。現実路線に転じたといっても、RNは今でも国粋主義的な性格が強い政党である。そのため、外資よりもフランス資本を優遇する政策を取る可能性が高い。元来、フランスの産業政策は保護主義的な性格が強いが、今後はそれが一段と強まる展開が意識される。 進展する政策があるとすれば、原子力産業の振興くらいだろう。マクロン大統領は脱炭素化の切り札として原子力を位置付け、その振興に努めているが、同時にこれは、フランスの「お家芸」としての原子力産業の復活を目指すものでもある。RNも国粋主義的な立場から原子力産業の振興を主張しているため、両者の方向は一致している。 またマクロン大統領の求心力の低下は、フランスのみならずEUの運営にも大きな影響を与えるだろう。