三吉彩花、自身のコンプレックスと向き合って挑んだ“運命”の役 意思表示の大切さを再確認
11月8日より公開中の映画『本心』で、過去のトラウマから人に触れられない女性・三好彩花を演じている三吉彩花。役名が一文字違いであるということに運命を感じながら挑んだ撮影でのエピソード、主演の池松壮亮の背中に学んだことや、原作者・平野啓一郎との秘話まで、たっぷりと語ってもらった。 【写真】三吉彩花の撮り下ろしカット(複数あり) ーー『本心』で演じられた役柄は、三吉さんと一文字違いなんですよね。 三吉彩花(以下、三吉):そうなんです。運命を感じざるを得なかったです。 ーー原作は読まれていましたか? 三吉:出演のオファーをいただいてから読みました。試写会のタイミングで、原作者の平野啓一郎さんにもお会いすることができて。 ーーどんな話をされたんですか? 三吉:第一声で、「なぜ、三好彩花という名前にしたんですか?」と(笑)。 ーーそれは気になりますよね(笑)。 三吉:はい。でも、本当に偶然だったみたいです。「執筆しているときは、三吉さんの存在を存じ上げていなくて……」と言われて、運命だったんだなぁと思いました。 ーーキャスティングも狙っていた部分があったんですかね。 三吉:どうなんですかね? ただ、ほかの人が舞台挨拶をしている光景を想像すると、「三好彩花役の〇〇です」ってすごく言いづらい気もします(笑)。この役柄は、今の自分に必要なものだったなと感じるので、私が三吉彩花という名前でよかったです。 ーー「今の自分に必要な役柄」というのは? 三吉:『本心』は、テクノロジーが急速に進化する中で、人の本心だったり、何を大切にするべきか、ということを深掘りしていく作品だと思うんですけど、わたしも本心が分からなくなる瞬間があるんです。「どれが楽しくて、何をしていると居心地が悪いんだっけ?」とか。 ーー特に、役者さんは自分以外の人に扮する仕事でもありますしね。 三吉:そうなんですよね。ちょうど彷徨っていた時期だったので、お話をいただいたとき、この作品と向き合うことで前に進めるかもしれないという思いがありました。 ーー撮影は、大変なことも多かったのではないでしょうか? 三吉:もう、ずーっと大変でしたね。ゴーグルをつけて、想像のなかで演じるとか。技術的にも難しい部分がありましたし、三好という役への向き合い方もそうでした。彼女自身のコンプレックスやトラウマって、共感できる部分とそうではない部分があるんです。「この役を演じるにあたって、何を準備していくべきか?」と考えたときに、わたし自身が自分のコンプレックスと向き合う時間が必要なのかもしれないと思ったんですよね。 ーーコンプレックスというのは? 三吉:家族のことです。小さいときから仕事をしているので、家族ではない大人とずっと接してきたんです。そうすると、良くも悪くも合わせられてしまうというか、空気を読めるようになってしまって。 ーー早く大人にならざるを得なかったという。 三吉:そうなんですよね。親に対しても、もっと子どもな自分を見せたいとか、甘えたいとか思っていたんですけど、なかなかそうはできなくて。わたしって、感情の起伏が激しいタイプではないんです。喜怒哀楽がないというか。でもそれって、そうしたいからしているわけではなく、抑圧されることが癖づいている感覚なんですよね。それが、ずっとコンプレックスで。 ーー実際に、向き合われてみていかがでしたか? 三吉:いやぁ、難しかったですね。でも、親もいつかはそういう話になるというのはわかっていてくれたみたいです。親に対する感謝は大前提にありつつも、「わたしはこう思っていたんだよ」とか。28年間生きてきたので、その溝を埋めるというのはどうしたって難しいとは思うんですけど。でも、話すのと話さないのとでは、全然違うなと思いました。 ーーご両親は、なんておっしゃっていましたか? 三吉:両親も、「本当はこう思っていたんだよ」などと本音を話してくれました。今までは、本音を言うことすら躊躇していたので、お互いに言い合うことができてよかったです。思っていることを口に出すって、仕事でも大切なことですよね。「わたしはこれがやりたい」「これはやりたくない。なぜならば……」と意思表示をしていかなければと気づくことができました。すごく意味のある向き合いだったなと思います。