「地方創生交付金の倍増」表明の石破首相⇒交付金に群がるコンサル&食い物にされる自治体…解決策は
だが、合同会社は事業や予算の詳細を公開していないため、議会はチェックすることができない。議員の一人が村に公開を求めたが、担当課の回答は「ソーシャルナレッジバンクから、報告に向けて準備中と聞いている」。議員によると、合同会社はその後も公開に応じていないという。 「企業への委託にしてしまうと、企業の事業についての情報は公表されません。でも、更別村の場合は行政も合同会社の構成メンバーとなり、交付金を使って公共事業を展開しています。公表の対象にしないというのは考えにくいですね」 村議の一人は「議会や村民がチェックできないような体制を、国が認めていること自体が問題」と憤慨する。 「デジタル田園都市国家構想は、デジタルを活用して地方の課題を解決しながら地方創生を推し進める取り組みです。 でも交付金を得たほとんどの自治体は、雇用の創出や出生率の向上という地方創生の目標に近づけていません。地方創生を再起動させて予算を倍にしたとして、果たして成果を出せるでしょうか。かなり厳しい気がします」 倍増したところで、民間企業に流れる交付金が倍になるだけ。国が先にするべきなのは、自治体の交付金の使い道や事業の成果を精査することではないのか。 ◆人材が育っている自治体、そうでない自治体の「10年後」は…… とはいえ、地方創生に成功している自治体がないわけではない。たとえば「奈良県広陵町の取り組みは好事例の一つ」と中山教授は話す。 「広陵町では役場と地元の商工会や中小企業、奈良県中小企業家同友会などが協力し、地域振興に取り組んでいます。広陵町の地場産業は靴下製造なんですが、町は奈良県や近畿経済産業局と連結協定を結んで一般社団法人をつくり、靴下のブランディングに力を入れている。 広陵町もデジ田の交付金を活用して事業を進めています。でも、そこに東京のコンサルは入っていません。中心になって取り組んでいるのは行政、商工会、広陵町靴下組合。広陵町の町長は役場出身で、職員が力を発揮して仕事ができるような環境を作ろうとしている。行政のトップの姿勢は、かなり重要なポイントだと思います」 まちビジネス事業家の木下斉さんが著書『まちづくり幻想』に書いている。 《行政は「自前主義」を取り戻し、委託事業などの予算を管理した上で、人材投資に切り替える必要があります。(中略)東京の外部コンサルタントにまかせて、どこも同じような計画案を組み立ててもらうのでは、地域の未来を描くのには不十分です。》 「結局は人なんですよ。役場の職員、商店街の事業者や経済団体などが協力し合って、地元に人材を蓄積していくことが大事。外部にどんどんお金を使っても、住民が少し便利になったなと感じるぐらいで終わりです」 国から地方自治体への交付金、それを狙うコンサルタントを中心とした首都圏の民間企業――。この構図は変えられないのか。 「国から地方への税源移譲を進め、自治体財政の自由度が高まるような仕組みに変える必要があると考えます。 地域のことを一番わかっているのは行政のはずです。職員をきちんと確保し、行政が公共性を発揮できるようにするべきでしょう。 小さな町でも商工会や経済団体があって、農協や漁協もある。役場を中心に地元の人たちが知恵を出し合い、まちづくりを進めていく。それができている自治体とそうでない自治体の10年後は、ずいぶん違うだろうと思います」 政府はさっそく「デジタル田園都市国家構想交付金」を「新しい地方経済・生活環境創生交付金」に改め、看板をかけ替えるらしい。 いずれにしても、国から億単位の交付金を得ることに一生懸命な自治体より、行政と地域の人材育成に力を注ぐ自治体のほうが、はるかに未来は明るいかもしれない。 ▼中山徹(なかやま・とおる) 奈良女子大学教授、工学博士、一級建築士。著書に『人口減少時代の自治体政策』『子どものための保育制度改革』『地域から築く自治と公共』『地域から考える少子化対策』(全て自治体研究社)など。 取材・文:斉藤さゆり
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