【F1分析】ノリス、ふたつの大きすぎるミスで母国イギリスでの勝利を逃す。なぜレース終盤にミディアムタイヤを履かなかったのか?
■最終スティントにはミディアムタイヤが残っていたのに……
こちらのグラフは、上位勢のペース推移の、最終スティント部分のみを拡大したものだ。 オレンジの実線で示したノリスは、スティント序盤こそ好ペースで走ったが、徐々にペースが低下。明らかなデグラデーション(性能劣化)の傾向が示されている(グラフ赤丸の部分)。 同じオレンジ色の点線で示したのは、ノリスのチームメイトのピアストリのペース推移だ。 ピアストリのペースは優勝したハミルトンやフェルスタッペンをも凌ぐものだった。このピアストリが履いていたのが、ミディアムタイヤだった。このミディアムタイヤは、実はマクラーレンにとってはとっておきの武器だったはずだ。 決勝レースを迎えた段階で、トップ4チームのうち3チーム(レッドブル、フェラーリ、メルセデス)は、ミディアムタイヤを1セットしか持っていなかった。その1セットをスタート時に使ってしまったため、最終スティントはソフトタイヤもしくはハードタイヤを使うしかなかったのだ。しかしマクラーレンだけは、ミディアムタイヤを2セット残していたのだ。ノリスがなぜ最終スティントでこのミディアムタイヤを使わなかったのか、甚だ疑問だ。
■FP2の時から明らかだった、ソフトタイヤの大きなデグラデーション
こちらのグラフは、イギリスGP初日のFP2での、マクラーレンのロングラン比較である。点線のピアストリがソフト、実線のノリスがミディアムタイヤを履いた。これを見ると一目瞭然。ソフトタイヤのデグラデーションが著しかったのは周知の事実。これはマクラーレンに限ったモノではなく、ソフトタイヤでロングランを行なったメルセデスやハース、RBでも同様だった。 決勝レース序盤にも、ソフトタイヤを履いたキック・ザウバーの周冠宇やアルピーヌのエステバン・オコンらが、早々にペースダウンしたのを目の当たりにした。 「ソフトタイヤに履き替えるという決断も、間違っていたと思う」 ノリスはレース後にそう語った。その彼のコメントの通り、ミディアムタイヤを選んでいれば、たとえ一時ハミルトンに先行されたとしても、勝利の可能性はグッと高まっていただろう。 しかしイギリスGPで、イギリス人同士が優勝を争うなんて……なんとも羨ましい話だ。
田中健一