ヒット曲初動化&ファン細分化を一気に加速させた「おニャン子クラブ」…そして「アイドル冬の時代」に
フジテレビが仕掛けた新しいアイドル像
’85年4月1日、ひとつの番組の放送がスタートする。 『夕やけニャンニャン』。フジテレビ系列で平日17時より生放送されたバラエティ番組だ。 【初々しい】かわいい…! 何かとお騒がせの斉藤由貴も、デビューのときは… 通称『夕ニャン』、もともとは同じくフジテレビ系で深夜に放送されていた『オールナイトフジ』を、女子大生メインから女子高生メインとして夕方枠にスピンオフしたような番組だった。レギュラー出演のとんねるずの人気も手伝い、中高生の間で瞬く間に人気番組となったが、その番組内のアシスタント的存在として現れたのが、おニャン子クラブだ。 結成当初は11人、メンバーには「会員番号」が与えられ、自己紹介の際には必ずその会員番号をつけて名乗っていた(最終的には52番まで)。視聴者はその番号の数字を名前や顔とセットで定着させていった。 番組開始から3ヵ月たった7月に、彼女たちはレコードデビューすることになる。 そう、『セーラー服を脱がさないで』だ。 そのタイトルと、<友達より早くエッチをしたいけど><バージンじゃつまらない>といったきわどい歌詞、それを「普通の」女の子たちが笑顔で歌い踊る。 ’70年代から連綿と続くアイドルソングの歌詞の世界には、背伸びしたい女の子の心情を歌うものは珍しくなかったが、隠喩などでもなく、ここまでわかりやすく、しかもあっけらかんとした「軽さ」をまとった世界観は当時の世の中の空気感にピッタリハマった。 おニャン子クラブがアイドル史にもたらした影響は、そのデビュー曲の衝撃以外にさまざまな部分でみられた。 『夕やけニャンニャン』は、放課後のクラブ活動というコンセプトのもと放送された番組。つまり、「普通の女の子」が放課後に当時まだ河田町にあったフジテレビにフラッと集まり、部活のようにアイドル活動をやるような感覚だ。たとえば『スター誕生!』は、参加時はもちろん素人ではあるが、その参加者たちは皆プロの歌手を目指して番組に参加していた。そして、厳しいプロの審査員たちの目と耳によって磨かれることになる原石だった。もちろん’70年代にも素人感あるアイドルは存在したし、おニャン子メンバーもプロになることを目指して加入したメンバーと本当に最後まで部活感覚だったメンバーが混在していたかもしれない。 おニャン子クラブの新しさは、原石をプロへと磨き上げるのではなく、原石感そのものを魅力として打ち出したところではないだろうか。原石としての状態は当然それぞれ異なるため、素人感といっても、はじめからうまいメンバー、下手なメンバーが混在する。それがまた虚構の世界ではなく、「どこにでもいそうな」リアル感ある世界、しかも平日夕方テレビをつければ必ず会える。それらがファンや視聴者と地続きの身近さを生み出す、新しいアイドル像と楽しみ方につながったのではないだろうか。それは涙ながらに「普通の女の子に戻りたい」と訴えたキャンディーズの時代から隔世の感があるように思える。