「虎に翼」を彷彿、〝試験管ベビー〟誕生までのスペシャリストの共闘を描く「JOY:奇跡が生まれたとき」
女性の選択肢が増える社会を願う
本作の主題は偉業達成の記録ではなく、20代だったジーンが30代になるまでの決して穏やかではない10年間の物語である。母親や教会との確執や、希望と落胆を繰り返す研究、生命倫理や宗教を理由に押し寄せる非難、そして自身の身体に生じる問題などが、エドワーズとステプトー、被験者たちとの関係の中で描かれる。 シリアスなテーマを真摯(しんし)に描いている本作は、下手すると暗く重いトーンになりかねないが、そうならなかった理由に、時代性のある音楽で彩る選曲のうまさがある。特にジーンがボーイフレンドとディスコで踊るシーンや、食堂のジュークボックスでジーンが選ぶ曲として流れる「Sweet Inspiration」などが映画に躍動感を与えている。 また、エドワーズ博士はケンブリッジ大学の教授だが、ステプトーの病院はマンチェスター郊外のオールダムにあるため、エドワーズとジーンはオールダムまで4時間の距離を車で通う。ドライブシーンに季節の変化を付けることで、イギリスの田園風景が視聴者の目を楽しませる。 そして忘れてはいけない存在が、不妊に悩む被験者たちが結成した「卵子クラブ」だ。ジーンの声掛けで彼女たちが季節外れの海に遊びに行き、ルードン・ウェインライト3世の「The Swimming Song」(73年)が流れる中、現実問題をさておき、ただただはしゃぐ。その姿を8mmフィルムカメラでとらえた叙情的な場面は、本作で異彩を放つ。希望があるからこその苦難を分かち合う彼女たちの笑顔に、仲間がいるから辛抱強く治療を続けられるのだろうなと感じさせられる。 2010年、この業績によりノーベル生理学・医学賞を受賞したエドワーズ博士が、ジーンの功績も歴史に残るように尽力したことがエンディングで明らかになる。権威のある男性がジーンを名もなき女性看護師に終わらせなかったこととその根拠こそ、つくり手がもっとも伝えたかったことと受け止めた。 Netflix映画「JOY:奇跡が生まれたとき」は独占配信中。
映画ライター 須永貴子