「虎に翼」を彷彿、〝試験管ベビー〟誕生までのスペシャリストの共闘を描く「JOY:奇跡が生まれたとき」
アメリカでは、女性の権利として認められてきた人工妊娠中絶手術を禁止、制限する方向に世の中が進みつつある。日本では女性に必要な緊急避妊薬は薬局で購入できないのに、緊急性のないED治療薬は処方箋なしに薬局で購入できる方向で検討されているという。女性の選択肢を誰が奪おうとしているのか? そのいくつもの答えが示唆されている作品が、Netflixオリジナル映画「JOY: 奇跡が生まれたとき」(11月22日より配信中)である。 【写真】〝女性にあらゆる選択肢を与えるために〟 「JOY:奇跡が生まれたとき」の一場面
主人公は看護師の女性、成功までの10年間の実話を実写化
本作は、看護師のジーン・パーディ(トーマシン・マッケンジー)、ケンブリッジ大学の教授で生物学者のロバート・エドワーズ(ジェームズ・ノートン)、腕の良い外科医で腹腔(ふくくう)鏡手術のスペシャリスト、パトリック・ステプトー(ビル・ナイ)が10年間の歳月を注ぎ、体外受精を成功させた実話を基にしたヒューマンドラマだ。 1968年、エドワーズは不妊治療の臨床研究に着手するために、ジーンを助手として採用し、同じく不妊治療に取り組んでいるステプトーに声をかけ、3人はチームとなる。被験者は、妊娠を望んでいるのに妊娠できないステプトーの患者たちだ。研究が緩やかながらも一歩一歩進むにつれて、マスコミや教会を筆頭に世間からの非難の声が日に日に高まっていく。
研究が進むたびに高まる世間からの非難
主人公のジーンは不妊治療という人助けに携わることで、人生で初めてやりがいを感じるようになる。しかし、唯一の肉親である母親は敬虔(けいけん)なクリスチャンだった。彼女は「体外受精は神の意志に反する」という理由でジーンを勘当し、ジーンは通っていた教会への出入りも禁じられてしまう。 さらにはステプトーが人工中絶手術も行っていることを知り、ジーンは大きなショックを受けるが、中絶手術の患者は性暴力の被害者だった。ステプトーはつまり、「女性にあらゆる選択肢を与えること」を信念として医療に取り組んでいたのだ。ステプトーの片腕である看護師長の「選択肢がなによりも大切なこと」という言葉がジーンを目覚めさせ、今の時代を生きる我々にも大きく響く。スペシャリストが女性の人権のために共闘する本作には、NHKの連続テレビ小説「虎に翼」を彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。 3人が医学研究評議会に呼び出されるシーンで、「不妊は少数の女性にしか影響しない限られた問題だ」と高齢男性が言い放つと、ステプトーは「男性の問題ならもっと真剣に取り組むのか?」と反論する。権威におもねらず、患者のことだけを考えている、気難しさと優しさが同居する職人気質の名医ステプトーを演じるのは、「生きる LIVING」でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたビル・ナイだ。ジーンが隠しているある問題に気付き、手を差し伸べる場面の名演技をぜひ見てほしい。