アルツハイマー病の新治療薬「ドナネマブ」の実力と対象者
認知症の7割近くを占めるアルツハイマー病。この進行を抑制する国内2例目の薬が9月に承認された。どんな薬か? 新薬レカネマブは誰もが使えるわけではない…早期アルツハイマー病患者が対象 「早期発見、早期絶望」という言葉もあるほど、アルツハイマー病は長らく「進行を止められない病気」だった。薬はあったが、症状を緩和するもので、進行を抑制するものではなかった。 ところが昨年9月承認の「レカネマブ(商品名レケンビ)」は、アルツハイマー病の原因物質アミロイドβを除去する国内初の「進行を抑制する薬」。臨床試験では、18カ月間の投与で進行を27%抑制。期間にして進行を約7.5カ月間遅らせることが確認された。 そしてレカネマブと同様、アミロイドβを除去する薬として今年9月に承認されたのが「ドナネマブ(商品名ケサンラ)」だ。神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域・古和久朋教授(同認知症予防推進センター長)によれば「ドナネマブはアミロイドβプラークしか認識せず、これを取り除けることが唯一かつ最大の作用機序の薬」。 アルツハイマー病は、何十年という長い期間を経て発症する。 まず起こるのは、アミロイドβの蓄積だ。それらはアミロイドβプラーク(老人斑)という塊となり、次にタウというタンパク質が蓄積して神経原線維変化が出現。脳の神経細胞が死滅し、やがて認知症の症状が現れる。 ■投与期間の目安は1年 レカネマブはアミロイドβが大きな塊になる前の段階に働きかける。一方、ドナネマブは塊であるアミロイドβプラークを除去する。アミロイドβプラークの中だけに存在すると考えられるN3pGアミロイドβを標的とするのだ。 「臨床試験では1年間で66%の患者さんのアミロイドβプラークが取り除かれ、投与完了後も効果が持続。認知機能低下およびADL(日常生活動作)の低下抑制が見られ、18カ月の投与で5カ月以上の進行抑制につながりました」(古和教授=以下同) レカネマブは投与期間が決まっていないが、ドナネマブは投与期間が決まっている。目安は12カ月で、最長18カ月だ。 「ドナネマブはアミロイドβプラークの除去が確認された時点で投与を完了できる、唯一のエビデンスを持っている薬」 レカネマブ、ドナネマブともに点滴投与で、レカネマブが2週間に1回、ドナネマブが4週間に1回。レカネマブ同様、ドナネマブも脳出血や脳の腫れなどの副作用が確認されているが、定期的なMRI検査で早期に発見し、適切に対処することで管理可能だ。 患者側としてはどちらの薬が優れているかを知りたいところだが、レカネマブとドナネマブの直接の比較試験は行われていない。ただ、私たちがしっかりと念頭に置いておきたいのは、どちらの薬も早期アルツハイマー病を対象としているという点。薬の恩恵を受けるには、早期での発見が欠かせない。 「認知症と診断される前に軽度認知障害(MCI)があり、最新の厚労省の調査ではMCIが認知症の有病率を上回っていると推計されています。しかし実際は、MCIの診断に至っていない人がかなりいる。早期アルツハイマー病やMCIの段階では物忘れが年のせいかどうか判断がつきにくい。しかし『ちょっと違うぞ』というものがいくつかあった場合、念のため、専門外来を受診してほしい」 どこを受診するか迷ったら、認知症に関する専門医療相談や診断などを行う医療機関「認知症疾患医療センター」が全国にある。インターネットで探すことができる。 ■保険が適用される レカネマブ、ドナネマブはアミロイドβを除去する薬のため、認知症であっても検査でアミロイドβが確認されなければ投与の対象とならない。どちらの薬も保険適用。高額ではあるが、高額療養費制度を利用できるので、月額限度額を超えた分は戻ってくる。