増える児童虐待。法改正してもなぜ2市だけ?進まない中核市の児童相談所開設
設置の大きな課題とは……
「中核市は54市あり、すべてを同列に論じることはできませんが、児相の開設にあたって大きな課題になっているのが財政面と人材面です」と話すのは中核市市長会の担当者です。 児相を設置するには事務所や保護施設といったハード面の整備もさることながら、職員や専門的な児童福祉司・児童心理司・保健師・弁護士といった人材を確保する必要があります。その人材確保が不十分な体制では、思わぬ事故が起きかねません。かえって事態を悪化させてしまう場合もあるのです。そうした人材不足もあって、権限が与えられても中核市は児相の設置に慎重な姿勢を崩しません。 中核市のような人口の多い自治体には、都道府県の児相の支所を設置しているケースも多くあります。そのため、中核市は都道府県の児相と連携を密にしたり、相談窓口を充実させるなど、迅速に都道府県へとつなげる体制を強化して児童虐待を防ぐ手立てを講じています。
来春開設目指す兵庫県明石市
多くの中核市が児相の設置に慎重になる中、2019年4月開設に向けて準備を進めているのが兵庫県明石市です。 今年2018年4月に中核市に移行したばかりの明石市は、市長が“明石市の子供は明石市が守る”と宣言しており、中核市になる以前から着々と児童相談所の開設準備を進めてきた経緯があります。 「もともと明石市では“こども”をキーワードに子育て政策の充実に力を入れてきました。そのため、子供をめぐる新しい政策にも市民の理解が得られやすいという環境があったと思います」と話すのは明石市福祉局児童相談所準備担当者です。 明石市は、“中学生までの医療費無料”や“保育料の無償化”“一人親家庭の支援”といった施策に取り組んできました。児相の設置は、そうした明石市の子育て政策の集大成ともいえる事業なのです。 ほかの中核市は児相を開設したくても専門職員が不足し、体制が整わないケースが目立ちます。どうして、明石市は専門職員を揃えることができたのでしょうか? 「子育て政策に重点を置いてきた明石市は、以前より家庭児童相談室といった窓口に職員を厚く配置してきました。児相を設置するにあたって、職員を増員することや研修等で専門性を磨く必要はありますが、以前からの積み重ねもあって一定数の正規職員がすでに確保できていました。そうした積み重ねが、職員不足を起こさず、児相設置に漕ぎつけられた大きな要因だと思います」(同) いまだ、児相の設置は高いハードルです。それでも、明石市のように“子供たちを守る”という信念を貫き、児相設置を進める自治体は確実に増えつつあります。 小川裕夫=フリーランスライター