「14万円のオイルディスペンサー」の共同製作者が語る、料理家・有元葉子の「こだわりを実現する力」
“有元葉子”を工芸を通して翻訳する
――渡邉さんの以前の取材記事(「わたしの名品帖」)の中に、「結局は人間力です。依頼者の人間力もあるんですが、技術力はもちろんのこと、コミュニケーション力や製作する体制も含めて、自分も準備しておかないと、大御所が依頼してきても対応できません」とありました。 「自分も準備しておかないと」とは、どんな準備ですか。 今回、有元さんからのオイルディスペンサーでは、いかがでしょうか。 「準備とは自身の感性やモチベーション、知識を高めていくことだと考えています。 普段から広く自身の仕事以外のモノやコト(経済や政治、環境問題、エンタメetc)に積極的に目を向けています。“どう工芸するのか”よりも“工芸で社会にどう表現するか”という社会性を大切にしています。 今回のオイルディスペンサーづくりは、先生の考えていらっしゃること(無形のもの)から、先生という存在・フォルム・仕様のこだわり・価格・生産数などを落とし込んで、永く愛着を持って受け継がれるものを具現化する作業でした。 言い換えれば、“有元葉子先生を工芸を通して社会に向けて翻訳する”ということですかね」 ――今後、どんなお仕事をしてみたい、また作ってみたいなどがあれば、ぜひ教えてください。 「これまで、いろいろな方達や企業案件を多くやらせていただきましたが、今後はさらにオリジナルで、まだ世の中にないものを生み出せたらと考えています。現在も進行形で建築とのお付き合いがあって、こちらの世界では工芸の拡張性や時代性を考えさせられます。 従来の工芸品制作だけでは見えてこない工芸の在り方や解釈、可能性を感じることでモチベーションも上がるので、続けていきたい分野ですね」 ◇主に工業として製品を作る人間を「職人」と呼ぶのなら、渡邉さんはその枠の中だけに収まる方ではないように思えた。 依頼されたものをただ作るのではなく、依頼主である“有元葉子”という人物を、工芸を使って世の中に発信しようとしているからだ。 渡邉さんは、“どう工芸するのか”よりも“工芸で社会にどう表現するか”を大事にしているとも言っていた。さらにオリジナルで、まだ世の中にないものを生み出せたらと考えている。 100年変わらず使い続けられるという確かな技術をもって、社会に何かを表現するとは、アーティストそのものの発想ではないか。 14万のオイルディスペンサーは用途から考えれば高価な道具かもしれないが、アーティストの作品と見るなら、どう感じるだろうか。 アートの価値は、買い手が決めるものなのだ。
風間 詩織(編集者)