F1メカ解説|8種類のリヤウイングと14種類のビームウイングを投入したマクラーレン……2025年ダブルタイトルを目指し「デザイン上のリスク」を冒す
2024年シーズン開幕当初のF1はレッドブルが席巻していた。しかしその勢いが徐々に失われ、代わりにコンストラクターズタイトルを獲得したのはマクラーレンだった。マクラーレンがコンストラクターズチャンピオンとなったのは、1998年以来実に26年ぶりということになった。 【動画】角田裕毅、インディカーを初ドライブ! マクラーレンはシーズンを通して、今季マシンMCL38の作動範囲を広げるという作業を行なってきた。そして、様々な特性のサーキットに合わせ、マシンを磨き上げた。 その主な手法は、リヤウイングとビームウイングのアップデートによって行なわれた。開発予算も、かなりの割合がそこに費やされた。 結果的にマクラーレンは、シーズン中に8種類のリヤウイングを登場させた。またビームウイングに関しては、14種類である。 この数字は驚異的なものだ。レッドブルが投入したリヤウイングは5種類で、ビームウイングに関しては4種類だった。メルセデスはいずれも5種類ずつ(ただ、両方が同時に投入されたわけではない)。フェラーリはリヤウイングのアップデート数こそマクラーレンに匹敵したが、ビームウイングの数は8と、マクラーレンには届かなかった。 FIAが公開したマシンのアップデート説明を詳しく読み直すと、フェラーリが鈴鹿とモンツァで投入したものは真の意味でのアップデートではなく、2023年に使われていたものだった。さらにイモラで投入されたものも、完全に新しいフラップとメインプレーンを持ったものではなく、先端の部分がわずかに変更されたというものだった。 これらのことを考えると、マクラーレンのアップデート数がいかに多かったかということが分かるだろう。 ■フリー走行で採ったデータが飛躍に貢献? 数字の観点から見ると、チームは複数のサーキットで同じソリューションを使う必要がある。つまり、特定のタスクを処理するために設計及び構成されたモノは、僅かであることは明らかだ。 しかし現行レギュレーションで改善された領域のひとつはビームウイングだ。レギュレーションで指定されたボックスの領域内であれば、ひとつまたはふたつのエレメントを使うことができる。そのためデザイナーは、設計する上で様々なオプションを利用できるようになった。 このビームウイングは、ウイングの幅全体にわたってダウンフォースを生み出したり、あるいは削ったりすることができるため、リヤウイングを変更するよりもはるかに費用対効果が高いと言える。 彼らは投入したモノをすぐにそのグランプリの決勝で使わず、あくまでフリー走行でだけ使い、データを取るだけに留めた時もあった。しかし、その後のグランプリで使い、戦闘力を高めていった。 そのフリー走行で採ったデータは、後の糧にもなった。このデータを元に、最終的にどの組み合わせが予選とレースで最適なバランスをもたらすのかを決定したのだろう。 また幅広いオプションを用意したことにより、標高がマシンの挙動に与える影響など、他の要因の最適なバランスを見つける際にも余裕を生むことになった。 ■2025年に向け”リスク”を冒す しかしコンストラクターズチャンピオンに輝いたことで、2025年のマクラーレンは、厳しい空力開発ハンデを受けることになる。その影響がどうなるのかは、非常に興味深いところだろう。持ち込むことができる空力パーツも減るはずで、2024年以上に効率的な開発を行なわねばならない。 また2025年の1月1日からは、2026年用のマシンの開発が解禁されることになる。全く新しいレギュレーション下で生み出される新マシンの開発と、2025年用マシン開発にリソースをどう振り分けるか……これも重要だ。 ただマクラーレンは、ダブルタイトル獲得を目指す2025年に向けて、単なる進化を計画しているわけではないようだ。 最近行なわれたオートスプリントのイベントに登場したマクラーレンのアンドレア・ステラ代表は、来シーズンに向けて次のように語った。 「我々はデザインの選択においてリスクを冒している」 そうステラ代表は語った。 「次のチャンピオンシップへのアプローチは、イノベーションに重点をおくために、勇気が必要となるだろう」 「夏に2025年マシンへの取り組みを本格化させた時、ドライバーズタイトルも狙うという野望があるならば、品質を飛躍させる必要があると判断した」 「チャンピオンシップをもう少し退屈なモノに……今年(2024年)ほど接戦にならないようにしたいと思っている。 「しかし実際には、4チームが競うこのチャレンジは、非常にエキサイティングなモノになると思っている」 Additional reporting by Franco Nugnes
Matt Somerfield/Giorgio Piola