新型コロナ 安全保障に欠かせないワクチン・治療薬 平時から情報収集・分析の体制整備
中国湖北省の武漢市当局が、後に新型コロナウイルス感染症とされる「原因不明のウイルス性肺炎」を2019年12月に初公表してから31日で5年。コロナ禍では、世界各国がワクチンや治療薬の開発を急いだ。特にワクチンに関しては、創薬国の欧米、日本だけでなく、ロシアや中国、インド、韓国など各国が国産ワクチンの開発に力を入れたのも特徴だった。実用化が進むと調達競争も起き、「ワクチンや治療薬は国の安全保障に欠かせない」という考えも広がった。 米国や英国では政府主導で開発支援を行い、また、莫大(ばくだい)な資金力を持つ巨大製薬企業が臨床試験(治験)などを推し進めた。一方、日本では開発が遅れ、「ワクチン敗戦」などと揶揄(やゆ)された。結果、日本は海外製に頼ることとなり、巨額の貿易赤字にもつながった。 それでも粘り強く開発を続けてきた企業が国内にはいくつかあり、現在、第一三共、明治ホールディングス傘下のMeiji Seikaファルマ、塩野義製薬のワクチンが承認され、日本にもあらゆる種類のワクチンを研究し、開発する技術があることを示した。そのうち第一三共とMeiji Seikaのワクチンは定期接種に用いられている。 コロナ禍の教訓から、国はワクチン開発の司令塔として先進的研究開発戦略センター(SCARDA)を設立し、平時からワクチン開発に関する情報収集、分析を行い、各機関の研究開発を支援する。また、塩野義の手代木(てしろぎ)功会長兼社長も「パンデミックが起きてから対応したのでは、時間には限りがある」と指摘。平時からあらゆるウイルスに効くワクチンや治療薬をある程度そろえておき、有事の際に応用、活用できるようにしようと、現在も研究開発を進めている。(安田奈緒美)