尊厳死と安楽死 米国人女性の「死の選択」が問うものは? 東京大学大学院・会田薫子
2014年11月1日、米国人女性のブリタニー・メイナードさんが米国オレゴン州で、医師から処方された薬物を服用して予告どおり死を選択したことは、日本を含め米国内外で大きく報道された。
医師に幇助された自殺(PAS)と尊厳死
彼女が行ったことは、オレゴン尊厳死法(The Oregon Death with Dignity Act)のもとでの医師に幇助された自殺(physician-assisted suicide、略称はPAS)である。合法的な死の選択であり、オレゴン州の保健当局の報告によると、同法下でのPASが開始された1998年から2013年末までに、752人がこの方法で死を選択している。また、オレゴン州に倣うように、ワシントン州、モンタナ州、バーモント州、ニューメキシコ州でもPASが法制化されている。 そのようなわけで、米国ではPASはすでに珍しいものではないのだが、今回は若く新婚の女性が生命を終わりにするPASという選択について、居住していたカリフォルニア州では認められていないためにオレゴン州に引っ越してまで実現し、さらに、自分の経験を広く発信したことで大きなニュースとなったのではないかと思われる。 彼女のケースが日本で報道された際に、このような死の選択について、これが尊厳死なのか安楽死なのか、用語の選択をめぐってマスメディアに混乱がみられた。上述のように、米国では合計5州で、PASを「尊厳死法」という名の法のもとで行っている。しかし、日本で尊厳死というと、一般には、延命医療を行わずに自然死することを指すことが多い。このように、現在、日米では同一の用語がまったく異なる意味で使用されているため、報道側は伝え方に難渋し、読者や視聴者は混乱したのではないかと思われる。
PASと安楽死
では、安楽死とPASの異同はどうか。両者は、死の選択のために致死薬を用いる点で共通している。異なるのは、安楽死では医師が致死薬を注射して患者を看取るが、PASでは医師が処方した致死薬を患者が自分で服用するという点である。つまり、PASの場合は、患者が自分で薬剤を服用可能な程度の体力を有していることが必要になる。 また、安楽死の場合は医師は患者の臨終の場にいるが、PASの場合は患者が希望した場合にだけ医師は同席する。オレゴン州の報告によると、2013年に医師の同席を希望した患者は11%だった。このように、PASの場合は医師に看取られないことが多いので、薬剤を服用しても目的を遂げることができなかった例も報告されている。 安楽死はオランダ、ベルギー、ルクセンブルグで合法化されており、ベルギーでは2014年2月に年齢制限を撤廃する法改正がなされた。つまり、小児における安楽死も合法化されたのである。一方、PASを合法化しているオレゴン州等の米国の州では、安楽死は禁止されている。 スイスでも自殺幇助は行われており、特徴的なのは外国人も対象としていることである。チューリッヒ大学の研究者の「自殺ツーリズム」という最近の報告によると、2008年~2012年までの5年間で、31カ国から611人がスイスを訪れ自殺を幇助された。内訳はドイツ人が44%、英国人が21%、フランス人が11%で、日本人は含まれていなかった。ちなみに、スイスでも安楽死は禁止されている。