自民総裁選ー仲間主義「安倍・菅政権」の強さと「個室の大衆」ホンネの民意
「弱さ」を支える仲間意識
安倍首相も菅官房長官も、他人をグイグイ引っ張っていく、豪腕、辣腕の政治家という印象ではない。 たとえば吉田茂、田中角栄、中曽根康弘、小泉純一郎といった政治家は、それぞれの性格としての「強さ」があった。しかし安倍首相と菅長官はむしろ「弱さ」の印象があり、それが周りの人間に「支えていかなくては」という感覚をもたせるのではないか。また逆に、この政権の周辺には、政治家や秘書官だけでなく、巷間噂されるマスコミ人、財界人も含めて、豪腕辣腕の猛者が多い。「中枢の弱さと周辺の強さ」のイメージがこの政権の特徴だ。 一種の「仲間主義」であろう。しかもそれは、かつての田中軍団のように現実政治的な力によって結びついた仲間ではなく、ある種の「信条」による仲間であり、そしてその信条は、論理的思想的なものというより、国家に対する愛情として「情緒的嗜好的」なものであるように思える。 そして最近この政権を支えているもう一人の人物は二階幹事長だ。この人は「弱さ」ではないが、やはり脇役的な「地味」な印象がある。田中派、竹下派といった主流派から、自民党を離れ小沢側近となり、保守党、保守新党を経て自民に戻って二階派を結成するという、まことに転変とした経歴である。また中国、韓国ともパイプをもち、安倍首相、菅長官とは異なる幅広い人脈があって党内をまとめる力になっている。さらに重要なことは、官房長官同様、次を狙うという野心が感じられないことだ。こういう脇役は強い。
国際協調と国益追求
そしてこの政権の最大の強みは、現在の世界の政治潮流に同調していることである。 トランプ大統領、習近平主席、プーチン大統領など周辺大国の独裁的な指導者、そしてヨーロッパ各国で台頭する右派勢力、そういった自国第一主義の潮流は、イアン・ブレマーの近著『対立の世紀』をまつまでもなく、世界が、人類共存の理念に向かう「協調」の時代から、それぞれ国益を追求する「対立」の時代にシフトしていることを感じさせる。そして安倍・菅政権は、これまでの日本の政権に比べれば、この潮流に乗るところがあるのだ。 考えてみれば、国家が国益を追求するのは当然のことであろう。 しかしながら、なりふりかまわない国益追求は19世紀から20世紀前半に見るような帝国主義国家の角逐を招来し、二つの世界大戦という陰惨な結果につながった。これに対する反省から、国際連盟、国際連合が誕生したのである。そう考えれば国際協調は時代の流れであり、すべての国が歩むべき方向ではあるが、国際機関の力はまだ弱く、大国の思惑によって動いているのが現実である。 つまり現在の国家指導者には、国際協調と国益重視のバランスが要求されるのだ。そして現在は、これまで国際関係を重視していた先進国と大国が、国益追求に重点を移している状況であり、安倍・菅政権もまたその「自国主義」の潮流に乗っているということである。「情緒的嗜好的信条」とはそのことだ。国民はそのことを察知しこの政権を容認している。