残せない女 【蝶花楼桃花 コラムNEWS箸休め】
私は食事を残さない女だ。聞こえはいいが、残せないという方が正しいだろうか。なおかつ、私は量も食べるし早食いだ。例えば映画のお供ポップコーン。 自分に言い訳ぎみに、かわいこぶってサイズを小にしてみる。 結果、予告で食べ終わる・・・。大にしておけばよかったと後悔。お目当てのカフェに行きかわいいスイーツでお茶をしても、私より前に来ていたほぼ食べ終わりそうな隣の女性たちよりも早く食べ終わってしまう・・・。途中でやめるとか、食べながらゆっくりするができない。いつからこんな女になったのだ。 よく考えてみると、落語家は「師匠より遅く食べはじめて、早く食べ終わらなければならない」という暗黙のルールがある。また、いまの時代はさほどではなくなったが、基本的には後輩がそこにある全てをたいらげる。 勧められたものは断らない、といった作法があったためだと推測する。 基本的に女性のいない落語界は男性と同じ量を食べるため、食べる量が格段に増えた。そして、前座になってからすぐに10キロほど太った。男性と同じ量を食べていたのだから、そりゃ仕方ないのだが、古くからの友人はそんな私を見て「あんたに何があったの?」と驚いていた。 しかし男性と同じ分量食べられるのは、前座仲間からも重宝され喜ばれた。あとは速度。特に熱い冷たいなどの食べ物の攻略は大変だ。先輩から実践的な早食い指南を受けた。 熱いラーメンや蕎麦(そば)をいただく時、お冷の氷を口に含みながらつゆをすすると即座に冷ますことができるなどなど・・・。そんな修行をしていた私は、いつのまにか食べる量と速度が格段に上がってしまったというわけだ。そしていまも定着している。 だけど、考えようによっては温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいままでいただけるのは一番おいしい食べ方だし。若い頃は女性がガツガツ物を食べるのははしたないという勝手な固定観念があったため、一気に食べたいところを、我慢して頑張ってチビチビと食べていた。だからガツガツ食べられる爽快感はたまらない部分もあった。 やっぱり原因は、修行のせいではないかッ! いつか食が細くなり、夜景の綺麗(きれい)なレストランで小洒落(こじゃれ)た会話を交わしながら、ゆっくり食事がしてみたいものだ。 いや、無理かな。 【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 49 からの転載】 蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか)/東京都出身。春風亭小朝さんに弟子入り後、二ツ目・春風亭ぴっかり☆時代に「浅草芸能大賞」新人賞を受賞。2022年3月、真打ちに昇進し高座名を「蝶花楼桃花」と改める。昇進披露興行、初主任興行、企画にもかかわった全出演者女性による「桃組」はいずれも大入り。今年7月、31日連続ネタおろし独演会「桃花三十一夜」を池袋演芸場で開催、大成功をおさめる。