「チラシのニコラス・ケイジの感じが僕の夢に出てくるオッサンに似ています。その似顔絵がこれです」【みうらじゅんの映画チラシ放談】『ドリーム・シナリオ』『テリファー 聖夜の悪夢』
『テリファー 聖夜の悪夢』
――2枚目のチラシは、ピエロの姿をした殺人鬼が襲ってくるホラーシリーズ第3弾、『テリファー 聖夜の悪夢』です。 みうら たまたま1作目を観ちゃったんです。このピエロ、本当どうしようもない奴でね。だいたいホラー映画って、ひとりくらいは生き延びたりしてもいいじゃないですか。 ――確かに、誰がどこまで生き残るかのゲームみたいなところありますよね。 みうら そこがハラハラするところでもあるでしょ? でも、この映画、全滅なんですよ(笑)。 チラシのコピーに「全世界が吐いた」って書いてあるでしょ? 本当やり口もエグくて。ピエロはズルくってやり返されてもすぐ再生してるんですよ。 殺人鬼にもそれなりに弱点とかあってもいいじゃないですか。でもこのピエロ、弱点がなさすぎるというか、ただただ酷いことをするんです。逆に死んだってことになってもね、どうせ起き上がるだろうなという、何だろう期待どおりというか……。 ――もはやホラーだけど安心感があるってことですか? みうら ですね。ピエロ側に安心感はハンパないんです。フラれてもすぐ立ち直る “寅さん”的な安心感というかね(笑)。 僕、昔から映画を観るときは主人公の気持ちになって観てきたんです。例えば『ローマの休日』だったら、オードリー・ヘプバーン側になって。そういう意味ではピエロ側になりきって観る限り安心感はあるというか。 ――それって殺す側の気持ちになるってことですよね? みうら 仕方なくですがね(笑)。 『13日の金曜日』シリーズのジェイソンだって蘇生はするものの、何というかピンチはあるじゃないですか。でも、このピエロには全くピンチがないんです。 ――スティーヴン・セガールとかチャック・ノリスの主演作みたいな感じなんですかね。 みうら そうですね。「やられるわけないだろ!」っていう安心感があるでしょ?(笑) あと、襲う人に対してせめて、恨みぐらいはあってほしいじゃないですか? それも全くないんです。 ま、「全世界が吐いた」というのが本当なら、全世界の人はピエロになりきって観てないってことなんでしょうけど。 ――チラシの背景に、もうひとり怖い顔の女の人がいますね。 みうら ですね。ピエロファミリーのひとりなんでしょうか? 3作目なんでそろそろ、何かしらピエロの生い立ちが分かるのかもしれませんね。そう、1作目がわけの分からなかった『ヘルレイザー』のように。 ――『ヘルレイザー』も徐々に正体が明かされますからね。 みうら 意味がよく分からないからこそ怖いっていうのもあるんですけど、さすがに3作目ともなると、その辺に踏み込まなきゃ映画がもちませんからね。 ――チラシの裏面を見ると、この人、相当調子に乗ってますね。サンタの格好してふざけてます。 みうら クリスマスに何かしらの恨みがあってほしいですよね。ピエロのお母さんが仏教徒で一度もクリスマスプレゼントをもらったことがなかったとか。 でも、このピエロに関してはたぶんそんな過去はないんでしょう。“たまたまサンタ”に決まってますよ。 ――『ジョーカー2』を抜いて全米ナンバーワンヒット、となってますけど、『ジョーカー2』は全米でもコケましたよね。 みうら あ、そうなんですか。僕『ジョーカー2』は観てないんですが、あのピエロメイクには何らかの理由があるんでしょう? ――『ジョーカー』にはありますね。なんでこうなったのかみたいな過程をちゃんと説明してる映画でした。 みうら やっぱね。でも『テリファー』は全く理由がないままシリーズ化してるんだと思います。当然、あのピエロはマイナンバーなんて取ってないでしょうし、そろそろ健康保険証が切れるなんて心配もありません。 となると、シリーズはどんどん上映時間が短くなってません? ――1作目は84分ですけど、2作目『テリファー 終わらない惨劇』が138分。 みうら え? ――そして今回の3作目は124分だそうです。 みうら そりゃ、ピエロになりきって見せなきゃ吐きますよ(笑)。 じゃ、仕方なく今回は「全世界が吐いた」側で見るようにします。こんなに後味が悪い映画はありませんからね。 取材・文:村山章 (C)2023 PAULTERGEIST PICTURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED (C)2024 Cineverse. All Rights reserved. ■みうらじゅんプロフィール 1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『マイ修行映画』(文藝春秋)、『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。