日米金融政策に政治はどう影響するか
政権は日本銀行に円安けん制と景気への配慮の双方を期待か
岸田政権が日本銀行に期待することは、もっと複雑だろう。個人消費の逆風となる物価高を助長する円安を日本銀行の政策を通じて止めて欲しい、というところが、本音としてはあるのではないか。 しかし一方で、個人消費が予想外の弱さを見せる中、日本銀行が追加利上げを急ぐことで、それが景気の逆風になり、あるいは国民から批判されることも政権は心配しているだろう。 円安けん制効果を持つ金融政策の正常化は進めて欲しいが、追加利上げには慎重であって欲しい、という政権のやや矛盾した要望を汲み取って、日本銀行は国債買い入れの減額実施をやや前倒しし、7月30・31日の金融政策決定会合でその具体策を発表する可能性も考えられるところだ。そうであれば、追加利上げの実施は同時には行わず、9月に先送りするのではないか。足もとで円安に一服感がみられることも、日本銀行が7月に追加利上げを急いで実施する可能性を低下させているのではないか。 他方、9月の金融政策決定会合では、その直後に行われるとみられる自民党総裁選が追加利上げの障害となる可能性は高くないと思われる。従って、追加利上げの時期は9月をメインシナリオと考えておきたいが、仮に日本銀行がそうした政治日程に配慮する場合には、追加利上げの時期が9月から10月に先送りされる可能性も残されているだろう。
大統領選挙の不確実性強まるがFRBは9月に利下げか
米国では、トランプ氏の襲撃事件を受けて、大統領選挙で同氏が優位との見方が強まった後、バイデン大統領が選挙戦からの離脱を決め、ハリス副大統領が公認候補となる可能性が高まっている。このように、大統領選挙に向けた政治情勢が足元で目まぐるしく動き、金融市場での不確実性が強まる中、経済、金融市場の安定の観点から、FRBが11月5日の大統領選挙前の利下げを見送るとの見方も生じている。しかし実際には、FRBが足元の政治情勢に配慮して利下げの時期を決める可能性は低いだろう。 また、トランプ氏は、大統領選挙前にFRBが利下げをすることは、バイデン大統領を支援することになるためすべきではない、とFRBをけん制している。他方で自身が大統領に返り咲いた場合には、経済を刺激しドル高を修正する観点からFRBに利下げを求める、と身勝手な発言をしている。 FRBは既に情報発信を通じて、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げの可能性を、金融市場に相当分織り込ませている。政治情勢の変化や政治的圧力によって、このスケジュールを見直す可能性は低いだろう。 今後公表される経済指標が、労働需給ひっ迫の緩和とインフレ率の低下傾向を概ね裏付けるものであれば、9月に利下げを実施する可能性は高い。そのスケジュールに狂いが生じることがあるとすれば、それは予想外の経済指標の発表のみである。 現状では、9月に日本銀行が追加利上げを実施し、FRBが利下げを実施する可能性が高いと考える。日米の金融政策が逆方向で交叉する、いわば「ゴールデンクロス」であり、それは円安の修正を促すだろう。政治的な要因が、そうした見通しに大きな修正を迫る可能性は低いだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英