イチローが憂う最新機器を使い回転数まで判明する超データ主義化の流れ
ただ、そうした数字で選手の能力を評価しようとする流れ、極端に言えば、試合を見ることなく、机上で分かった風な判断を下す傾向を、イチローは苦々しい思いで見つめている。 「チームによっては2アウト三塁で、僕なんかはよく使っているテクニックだけど、速い球をショートの後ろに詰まらせて落とすという技術は確実に存在するわけで。でも、今のMLBの中での評価はーーチームによっては、そこで1点が入るよりも、その球を真芯で捉えてセンターライナー、という方が評価が高い。馬鹿げてる。ありえないよ、そんなこと」 一般的には、強い打球、速い打球が好まれる。データサイト「fangraphs.com」にも、「Soft%, Med%, Hard%」と打球の強さを評価する項目があり、その解説には、“一概には言えない”との断り書きがあるものの、強い打球(Hard)は、弱い打球(Soft)よりもヒットになる可能性が高い、と説明されている。 しかし本来、打球の強さは、そうして単純評価できるものではない。イチローにしてみれば、詰まらせているのは意図的。ショートの守備位置が深ければ、詰まらせてそこへゴロを転がすこともある。そういう技術はしかし、データに反映されることはない。強い打球を打つために必要とされるスイングスピードの速さに関しても同様で、イチローは狙いによってそれを変えている。平均値でみればイチローよりも速い選手などいくらでもいるが、2001年以降、イチローよりもヒットを打っている選手はいない。 結局、いくらStatcastが投手が投げる球の回転数やスイングスピードなど、肉眼では判別できない数字を弾き出せたとしても、打者の狙いや技術までは、数値化できない。 数字からは見えてこないものとして、イチローはこんな例えも口にした。 「ピッチャーが100マイル(約160キロ)を投げても、嫌なボールではないケースでもある。でも、90マイル(145キロ)でも、こいつ嫌だなぁと思うこともある」 それでも時代はより速く、より強く、より遠くへ。 ファンが楽しむ分には構わない。それがしかし、現場にも持ち込まれ、評価する人がグラウンドではなく、パソコンの数字に向き合う時間が増えると、本質を見落とす。 そんなデータ偏重の流れに対しイチローは、「憂うべきポイント」と警鐘を鳴らす。 「野球が、頭を使わない競技になりつつある」 イチローのような選手には、少々居心地の悪い時代なのかもしれない。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)