なぜ大荒れとなったMGCで“伏兵”中村匠吾が勝てたのか?
大迫も前日にラスト3マイル(約5km)を試走していた。 「昨日はきついと思わなかったですけど、今日は最後の坂がきつく感じました」と短い上り坂を甘く見ていたのかもしれない。中村に引き離された大迫は、41.9km付近で今度は服部に並ばれた。そして、ふたりの意識の違いが明暗をわけることになる。 「勝つことを意識していた」という大迫に対して、服部は「2位を目指してというのはおかしいですけど、絶対に無理はせず、冷静に、冷静に走りました」と中村のスパートに過敏に反応することはなかった。 「離されたときは厳しいかなと思ったんですけど、自分はまだ脚を残していたんです。大迫さんが後ろを振り返ったので、もしかしたらチャンスがあるのかなという気持ちになりました。抜かしたところは、あまり覚えていなくて、気づいたらゴールの手前でした。無我夢中で走った感じです」 服部は中村から遅れること8秒。大迫に5秒差をつけて、2時間11分36秒で2位を確保した。日本記録保持者は最後に力尽きた。 「前半からペースのアップダウンにいちいち対応してしまったところがあったので、最後は脚が残っていなかったですね」と大迫。33km付近で右脇腹を押さえる仕草も見せており、終盤は苦しいレースになった。 暑さに強く、毎年8~9月になると調子が上がってくるという中村にとっては、今回の気象条件が誕生日プレゼントになった。26歳最後の日にMGCで優勝を勝ち取り、27歳を東京五輪内定選手として迎えることになる。1学年下の服部も学生時代から東京五輪を意識して、逆算するかたちでマラソンに取り組んできた。MGCに向けては苦手だった上り坂を意欲的に走り込み、ラストスパートに生かした。ふたりはともに夢のスタートラインへ向かうことになる。 3人目の代表は今冬から実施されるMGCファイナルチャレンジ(福岡国際、東京、びわ湖)で派遣設定記録(2時間5分49秒)をクリアした最速タイムの選手が内定となる。突破者がいない場合はMGCで「3位」のランナーが選ばれるため、大迫は日本代表に大きく前進したともいえるが、「待つのか、自分も自己ベストを狙っていくのか、コーチと相談して考えていきたい」と揺れる胸中を明かした。 設楽と井上も明確な答えを口にすることはなかったが、東京五輪を目指すには、日本記録となる2時間5分49秒以内を狙うしかない。MGCファイナルチャレンジで優勝記録が派遣設定記録を超える可能性が最も高いのは、来年3月の東京マラソンだ。設楽と井上は2018年大会でともに2時間6分台をマークしており、東京での一発にかけてくるだろう。そこに大迫の参戦もあるかもしれない。東京五輪代表をめぐるドラマはまだまだ終わらない。 (文責・酒井政人/スポーツライター)