なぜ大荒れとなったMGCで“伏兵”中村匠吾が勝てたのか?
東京五輪マラソン日本代表選考会となるマラソングランドチャンピオンシップ(以下、MGC)の男子はゴール直前まで大激戦となった。“3強”と呼ばれた日本記録(2時間5分50秒)を持つ大迫傑(28、ナイキ・オレゴン・プロジェクト)、日本歴代2位(2時間6分11秒)の設楽悠太(27、Honda)、同5位の井上大仁(26、MHPS)は内定基準の「2位以内」に届かなかった。MGCを制したのは5~6番手と見られていた中村匠吾(27、富士通)だった。 波乱のレースになった理由はどこにあったのか。設楽についてはペースメイクに無理があった。記者会見での宣言通りに序盤で飛び出すと、10kmを29分52秒、20kmを1時間0分04秒という冬マラソンのようなハイペースで通過する。15km地点では2位集団に2分13秒もの大量リードを奪った。しかし、後半に失速して、37km過ぎで首位から陥落した。 設楽にとっては、「誰もついてこなかったのは予想外」だったが、結果を考えると、前日本記録保持者の挑発に乗らなかった29名は正解だったといえるだろう。スタート時の気温は26.5度、湿度63%。前日と比べて気温は5度以上も高かった。前日と同じくらいの気候なら設楽はそのまま逃げ切っていたかもしれないが、レース後は「暑さで覚えていない」と言うほど朦朧としていた。結果は2時間16分09秒の14位だった。 昨夏のジャカルタ・アジア大会で金メダルを獲得した井上は序盤から動きが良くなかった。途中でキャップを投げ捨て、イライラしているようにも見えた。そして15km付近からペースダウン。完走した選手のなかでは最下位(27位/2時間22分10秒)に沈んだ。酷暑のレースでも結果を残していただけに、「身体が動かなかった理由はわかりません」とゴール後は茫然としていた。 そして、大本命・大迫も冷静さを欠いていた。 「普段なら集団後方を走るんですけど、心のなかで焦ってしまった部分もあって集団前方を走っていました」と過去のマラソンにはない“レース運び”をしていたのだ。