なぜ荒くれ者のヤクザも“覚醒剤依存”少女も、自ら秘密を語ってくれるのか? ノンフィクション作家・石井光太の「聞き出す技術」
すると当人にしたら、苦しい自分の体験や、愚かでしかないと思っていた行為が、社会にとって意味のあるものにできるのだ、だとしたら自分の存在や今までの苦しみは無駄じゃなかったんだと感じ、語りだすようになります。そういう“社会化”の出口をこちらがうまく用意することが「語りたくなる」契機となります。
薬物使用の体験を次々と明かした少女
――非常に興味深いですね。心理的安全性を担保すると同時に「社会化」という道を提示するアプローチは。 石井 社会の外側で生きてきた人も、わかってくれる人がいるなら本当はしゃべりたいんです。本でもふれましたが、ある女子少年院で覚醒剤の使用で逮捕された少女に取材したさい、法務教官はじめ周りの大人たちに決して語らなかった薬物使用の体験を彼女は次々と明かしてくれたので、関係者に大変驚かれました。 私は「覚醒剤ってそんなに気持ちいいんですか。全然知りませんでした。それを読者が知ったら覚醒剤をやめられなくなる理由がわかるし、覚醒剤に対する考え方も変わりますよね。他のクスリはどうなんですかね?」と同じ目の高さで、社会から見たときの驚きを返していただけです。違法行為そのものは肯定しない。でもその出来事や状況への素朴な驚きや発見を素朴に伝えていく。 人は、責められたり、ジャッジされたりすることなく、自分の話に価値があるんだと感じられるとき、本音を語ってくれます。 ――それって取材にかぎらず、相手の本心を聞き出す技術として普遍的なことかもしれませんね。
“相手の話を深く引き出す”普遍的なコツとは?
石井 そう思います。たとえば大人が子どもの本音を聞くことにしばしば失敗してしまうのは、事実関係を並べて問い詰めがちだからなんですね。理詰めで質問しても、心の内は明かしてくれません。 そもそも「社会に出ている事実」と「その子にとっての事実」は違う。私なら、同じ事実確認をするにせよ、「こう言われているけど、それってホントは違うんじゃないの?」とあえて逆の言い方をして、その子が見えている現実を引き出しますね。 相手の話を深く引き出すもうひとつの普遍的なコツは、聞き手の「当事者性」を示すことです。高みの安全圏からではなく、同じ地平に立ち、体験の中身こそ違えど同じような苦しみや迷いを抱えた人間であることを開示する。 たとえば、私がいじめ自殺事件を取材したときは、小学校の低学年のときにいじめられていた体験を話しましたし、8050の事件を取材したときは、自分の遠縁にひきこもりの中年がいることを打ち明けました。元浮浪児のお年寄りにインタビューした時は、20代の頃にアジアのスラム街で戦災孤児と一緒に暮らした話をしました。 この人も同じ当事者なんだと感じてもらえたときに、人は心を開いて語り出すというのは、大人でも子どもでも共通することではないでしょうか。 ――わかります。当事者性があってこそ、そこで投げかけられる言葉に上っ面ではない重みが宿る気がします。