”熱男”松田宣浩が語るプレミア12優勝の真実「チームでスタメンを外れたときの感情と違った。日の丸の責任は重かった」
その日、東京ドームのロッカーで稲葉篤紀監督が読み上げたスタメンに福岡ソフトバンク・ホークス松田宣浩の名前はなかった。 だが、悔しさではなく、「自分が国民の期待に応えられなかった、という思いが真っ先に浮かんだ」という。 「呼ばれなかったのは、当然のことと言えば当然のこと。ショックはなかった。出る、出ないに関係なく、あと1試合でチームが世界一になる。じゃあ、自分に何ができるのか。裏方に徹しよう。自分が試合に出ている気持ちになって盛り上げよう」と決意したという。 11月17日、東京ドーム。プレミア12、韓国との決勝である。 “前哨戦”となる前日の韓国戦にチームは10-8で競り勝った。スタメン出場した松田は、押し出しの四球をひとつ選んだが、4の0。大会通算打率は.125にまで下がっていた。稲葉監督は短期決戦ゆえ「好調選手を最優先」の方針を貫いていた。 松田はソフトバンクでも、クライマックスシリーズのファーストステージでスタメン落ちを味わったが、その際に沸きあがった感情とはまったく違ったという。 「チームのCSでスタメンを外されたときは、“くそ!“という気持ちがあった。その気持ちがなくなったらユニホームを脱いだ方がいい、というのが僕の考え。でも、チームで外された感情と、ジャパンで外されたときの感情は違った。ジャパンでは悔しさよりチームのために裏方としてやれることは何か、何をすればいいのか?という気持ちが先に立った。日の丸を背負う28人は試合に出ていても出ていなくてもひとつ。それほど日の丸の責任は重たかった」 日の丸を背負う責任とプライドである。 前日、東京ドーム近くのドン・キホーテで買い物をし「必勝」ハチマキを仕込んでいた。 「スタメンで出ようが出まいが試合前にこれで気合を入れようと」 プレーボール直前のベンチ前の円陣では、松田が真ん中に入り、ハチマキの「必勝」の2文字を差し「勇人(坂本)!これなんて書いている?」「監督!これは?」と稲葉監督にまで呼びかけて、決勝に挑むチームの緊張を解きほどいた。 試合中はベンチの一番前に陣取った。その声は記者席にまで響いていた。 「14年間、プロでやっていて声も武器、一芸なんだと改めて思う。これがないと僕じゃない。打つ方で結果が出なかった。でも、そこで腐っているのは僕ではない。決勝までも結果が出ずにスタメンを外れた試合もあったけれど、ずっと胸の内は熱男だった。自分では盛り上がっていた。楽しかった」 試合は先発の山口俊(当時・巨人、現ブルージェイズ)が立ち上がりに2本塁打を浴びて3点を失い、先手を取られる最悪のスタートとなった。だが、その裏、大会MVPに選ばれた頼れる4番、鈴木誠也(広島)のタイムリーで1点を返し、2回に山田哲人(ヤクルト)の3ランで逆転。2回以降は、6人の投手で8イニングを“ゼロリレー”でつなぎ、韓国打線の反撃を許さずに逃げ切った。 「ベンチで声を出すのは、当たり前。勇人もスタメンを外れた試合があったが、彼も声を出した。グラウンドの9人だけでやっていない。ベンチワークも含めての世界一。そこに選手一人一人の温度差はなかった。五輪のプレ大会として、“五輪は、こんな感じでやればいい“とのデモンストレーションができた。こういう方向で日本は進んでいくんだという形は見えたと思う。五輪は、もっと厳しい戦いにはなると思うが、金メダルは取りたいし金メダルを取る道筋はできた」 松田は歓喜のマウンドへも真っ先に走り出した。