“臭すぎる”がカネになる「ラーメン山岡家」の業績が絶好調な理由
24時間営業、安くて旨い
ちなみに山岡家のラーメンは、茶濁した濃厚スープに太目の麺、そこに大きな海苔とほうれん草がのるビジュアルと、屋号の「〇〇家」から、同じく人気を博す横浜発祥の家系ラーメンと混同される。しかし2つは大きく異なる。山岡家には、家系ラーメンにとって最大の特徴である鶏油(チーユ)が使われていないからだ。 山岡家はあくまで豚骨100%のスープ。これまで難しかった濃厚豚骨ラーメンを全国的にチェーン展開するという偉業を成し遂げた店として、唯一無二と言えるだろう。 しかも、このラーメンを24時間営業で提供するというのだから驚く。ロードサイド店が多いということで、家族連れだけでなく、トラックドライバーらも利用するため、お昼時や夕食などのピークタイム以外にも集客が見込めるのは大きい。 その上、昨今のコロナ禍でテレワーク人口が増えたことも追い風になった。郊外の昼間人口が増加し、ピークタイム自体の利用客も増えたという。さらに札幌中心部の店舗では、インバウンド(訪日外国人)客も押しかけ、行列をつくっているとか。 都心にある個人経営のラーメン店と比較しても、山岡家の優位性は認められる。第一に価格面。一杯1000円オーバーも当たり前になりつつある中、山岡家のレギュラーメニューであるラーメン(醬油・味噌・塩)は一杯税込み690円。「山岡家といったらコレ!」という人も多い、人気の特製味噌ラーメンも890円と、破格と言えよう。 第二にジャンル。都心部では2000年以降、こだわりの食材を用いた“繊細な”ラーメンが中心になる中、背脂などワイルドなイメージを持たれがちな豚骨系のラーメン店は減少していった。その点、山岡家は本格的な豚骨ラーメンという需要を満たす稀有な存在となった。
郊外だからできること
そして第三に座席だ。「ラーメン店はカウンターのみが一番効率が良い」というのは業界の常識となっているが、やはり家族連れには利用しづらい側面がある。その点、山岡家は郊外という立地のおかげで、テーブル席が充実したゆとりのある店内設計ができ、ファミリー層にもハマったのだ。 こうした郊外が活況を呈する傾向はラーメンに限った話ではない。喫茶業界でもコメダ珈琲や星乃珈琲店など郊外型店舗を多数持つチェーンが躍進している。筆者が思うに、今飲食チェーンでは、単に食事する場所というだけでなく、「食事する時間をどう過ごすか」も重要視されているのだろう。 都心では地代や人件費等をまかなうために、一杯の値段と回転率を上げなくてはならなくなる。一方、郊外では地代が都心に比べて安いことで、広い店舗が持て、多人数でも快適な食事の時間を過ごす店舗づくりが可能だ。 来店客の仕事や世代、人数にフォーカスして、その土地にあった店づくりが求められているにしても、その正解はけっして1つではないはずだ。 昨今、都心でもこってり系のラーメンが再注目される傾向にあるという。もしかしたら山岡家が都心にも積極的に進出を進め、ブレイクする日も来るかもしれない。いずれにせよ、山岡家が持つクオリティとホスピタリティをいつまでも存分に味わえることを願うばかりだ。
刈部 山本(ライター)