台湾現地ルポ・立法院占拠24時 第3回 学生は何を考えていたか
「第2回・立法院の熱気」から続く 学生たちが占拠を続ける立法院の周辺には、生活感が漂っていた。地方から来ていた学生も多く、立法院周辺には大学名をぶらさげたキャンプ用のテントがすらりと並んでいた。森林南路へ向かって歩をすすめると、食糧のはいった段ボールが積み上げられていた。街頭には携帯電話の充電スペースもあり、机におかれた段ボールのなかには10台程のスマートフォンがコンセントに繋がれている。
まるで合宿でもしているような雰囲気だが、政治の話になると学生たちの表情は一気に引き締まった。「密室で議論を進められ、(サービス協定に関する)内容説明が不十分だ。現在の協定は台湾にとって不利なものであり、政府は国民を欺いている」。台北市出身の大学生・盧さん(18)はこう述べ、政府の対応を厳しく批判した。立法院の敷地内の診療室にいた花さん(22)は「サービス協定は国内の弱小産業だけでなく、台湾の原住民の文化にとってもマイナスの面がある。いかなるFTAに対する署名であれ、経済以外の要素も考慮するべきだ」と話し、台湾の社会保障制度や医療システムを維持するためにも協定は慎重に扱うべきだと強調した。
「馬総統は国家の尊厳を維持し、自国民の利益を考えるべきだ。私たちは中国人ではない」。こう述べるのは、立法院の敷地内で通行人を案内していた女子学生(22)。運動に参加した学生たちの多くは、台湾で戒厳令が解除された1987年以降に生まれた世代だ。90年代の台湾では民主化が進み、それまで学校教育で禁止されていた台湾語の課外授業もおこなわれるようになった。彼らには中国と異なった文化や歴史を持つ「台湾人」としてのアイデンティティが強くある。
だが、党の綱領に「台湾独立」を掲げる野党・民進党の支持率も決して高くはない。高雄からきた大学生の高さん(20)は「民進党は陳水扁政権時代に発覚した汚職スキャンダルで支持を失った。いま学生のあいだで一番人気があるのは柯文哲だ」と話した。柯は台湾大学に勤務する外科医で、次の台北市長選に出馬するとみられている。政治家としてのキャリアが皆無にもかかわらず、柯の支持率は世論調査で圧倒的な数字をたたき出している。政治家としての経験が皆無の柯には、その手腕を疑問視する向きもあるが、若者や無党派層を中心に既存政党に対する不信感が高まっているのは確かなようだ。
これまでの台湾は、親中と独立の間で揺れ後いてきた。独立を全面に押し出した民進党時代には中国との関係が悪化した。その反動として登場したのが国民党・馬英九政権だった。だが、サービス協定により「両岸」の経済的統合を推進しようとした馬政権に対し、台湾の大学生たちは蜂起した。「ひまわり後」の台湾では、民主主義と国民国家を守りつつも、中国との関係も維持するという高度なバランス感覚が求められている。 (文・写真 / 河野嘉誠)