国内旅行ですら“高値”の花? インバウンド需要による価格高騰の余波はどこまで進むのか 田内学
物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2024年12月2日号より。 【写真】田内学さんはこちら * * * ランチを少し奮発しようと思って、近所の天ぷら屋に向かった。平日の昼どきはコース料理だけでなく天丼も何種類か提供していて、なんとか手の届く価格帯なのだ(とはいえ、そば屋の天丼よりは高い)。 店に着くと、外に置かれたメニュー表の上に「本日は予約で満席です」との札がのっている。外国人観光客が多いエリアなので、その影響だろうと思っていると、メニュー表に書かれた「申し訳ございませんが」からはじまる謝罪文に気がついた。 単価の低い天丼メニューは先月に一掃され、ランチもコース料理だけしか提供できないとのことだった。これもまた外国人観光客をターゲットにした戦略だろう。コースだと価格は2倍から3倍になるので、席が空いていたとしても、天ぷら屋でのランチはあきらめるしかなかったのだ。 こうしたインバウンド需要による価格上昇は、近所の天ぷら屋だけでなく、当然、観光産業全体に波及している。東京のビジネスホテルの宿泊料は、コロナ前の2019年の1.5倍になったという調査もある。東京だけでなく大阪や京都など外国人人気の高いエリアで価格上昇は顕著で、筆者自身も先月の大阪出張で、2万円以上のビジネスホテルしか見つからなかった。以前は1万円払えば泊まれるホテルがいくらでもあったのに。海外旅行のみならず、国内旅行も「高値」の花になってしまった。 一方、インバウンドによる観光業の活況は、食料品(輸入品)やエネルギーの物価高の元凶である円安を食い止めるという一面もある。観光業のように外貨を取得できる産業の存在が不可欠だ。 かつてはメイド・イン・ジャパンの自動車や家電製品が海外市場で絶大な人気を誇っていて、それが為替レートのバックストップになっていた。円安になれば日本製品が売れるので、外貨を稼ぐことができた。その結果、為替市場で、円が買われて円高ドル安に動く。