国内旅行ですら“高値”の花? インバウンド需要による価格高騰の余波はどこまで進むのか 田内学
しかしながら、現在では、日本に強みがある輸出製品が減っていて外貨を稼げなくなっていたり、生産基盤が海外に移ったことで外貨を稼いでも為替市場での円買いにつながらなかったりする。そうした点では、外国人向けの観光業が円安を食い止める主要な産業の一つとなっている。 失われた30年を経て、日本は観光立国を目指すようになったのだが、観光業には大きな問題がある。労働集約的な産業なのだ。工場みたいにフルオートメーションとはいかない。旅館で食事を運ぶ仲居さんやビジネスホテルで清掃するスタッフなどの多くの労働力が必要になる。 いまの日本で観光収入をさらに増やすことを考えると、他の産業から労働力を奪い取ることにつながる。そうなると、高騰するのは天ぷら屋やビジネスホテルだけではすまない。 少子高齢化がすすむ日本で、ますます労働力不足が進むと言われているのに、労働集約的な観光立国を目指すのはいささか無理がある。 少人数で大量生産できるような新たな輸出商品やサービスの開発に力を入れないといけない。テクノロジー分野や高度な製造業、クリエイティブ産業など、今後の成長が期待される分野への投資と支援を強化することが求められる。 ※AERA 2024年12月2日号
田内学