愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?
● 兵庫県丹波市の山間部にある通販専門のパン工房は、東京の大手企業で働いていた人が脱サラして立ち上げた。そのときどきで手に入る食材を基にレシピを考えるため、商品は「おまかせセット」のみ。注文を受け付けるのは数カ月に1度にもかかわらず販売するパンはすぐに売り切れる。地元丹波を中心に、顔の見える生産者が手掛けた食材を適正価格で買い取ることにこだわっており、地元の小さな経済圏の中心となっている。 ● 日本で介護職に就いていたある人は、オーストラリアに渡って現地の介護現場で仕事をするようになって、月収が日本にいた時の3倍以上の80万円程度に跳ね上がった。しかも、日本と違い残業はほとんど無く、余暇に医療英語の勉強をする余裕もできたという。 人口減少下の日本経済は、全体で見ると多くの業種で長らく深刻な人手不足にある。にもかかわらず、人材のミスマッチは一向に解消せず、賃金の上昇もまだ限定的で不十分な水準が続いていた。しかし、このようにミクロレベルで個別の動きに目を凝らせば、やりがいのある仕事を見つけて人並み以上に「稼いで」いる人たちもたくさんいる。 そのような事例から浮き彫りになるのは、既成の常識や慣習にとらわれずに、業種・業界や地域・国などの間の見えない「壁」を乗り越えて、新たな市場や成長機会の開拓に積極的に挑戦するヒトや企業の存在だ。 「壁」をものともせずに果敢に動くヒトが、人並み以上に「稼げる」チャンスをつかむ。様々な「壁」を乗り越えて新たな事業を興し、他社よりも「稼げる」機会を提供する企業に、やる気と能力にあふれたヒトが集まり、その企業がますます成長する。さらに、こうしたヒトや企業を熱心に誘致・勧誘した地域の経済は活性化し発展していく――。こうした好循環が、“個が輝く”ことを起点に日本各地で芽生え始めている。 これからの日本社会は、全体を優先するがあまり個を劣後しがちだった同調性が強い空気を変え、自律した個が輝き、かつ互いが「壁」を乗り越えてつながることで、真に“協調”する社会へと変化を遂げることが求められている。
デロイト トーマツ グループ