愛媛の農園、オーストラリアの介護職、兵庫のパン工房に共通する、人口減少下で人並み以上に「稼ぐ」ヒントとは?
「希少性」を増す個々の人に光を当て、一人ひとりが価値を発揮し輝くには、日本全体の経済規模を大きくして結果的に個が豊かになるという捉え方から、個を豊かにすることに主眼を置き、その集合体として全体が成長する、という考え方に発想を転換する必要がある。 本書の目的は、人口減少下にあっても価値循環を通して、一人ひとりの付加価値や豊かさの向上につながる道筋を描くことにある。そうしたシナリオを描き、個々人が、企業、地域、産業などあらゆるレベルで実践することで、将来への手応えと予見可能性を高めて、1人でも多くの人が「明日は今日よりも良くなる」と感じられる日本社会の指針になることを目指している。 “個が輝く”――。実は、目を凝らしてみると、そのきっかけともなる新たな動きは日本各地ですでに出始めている。そうした動きの一例を見てみよう。 ● 農業は「もうかる仕事」として人気が高まっている。愛媛県でかんきつ類を中心に農園を営む人は、4年間自衛官として働いた後に一念発起して農業の道に入った。高級かんきつ類に的を絞って高収益農業を追求しており、「農家はもうからないイメージがあるが、そんなことはない。高収入で、やったらやっただけもうけられる」と意気込む。農林水産省のデータによると、49歳以下で起業して農業に新規参入する人の数は、過去10年余りの間に約3倍に増えている。 ● アニメの作画を担うアニメーターの仕事は、低賃金・長時間労働が「当たり前」とされてきた。しかし、人手不足が深刻化する中で、アニメ制作会社が一定以上の実力のあるアニメーターを「囲い込む」動きが顕在化し、それに応じて平均年収も上昇傾向にある。日本動画協会によると、近年、アニメ市場の規模は海外が国内を上回る勢いで急速に伸びてきている。こうした中で、現状の倍以上の報酬を手にする例も出現しつつあるといわれている。 ● 国際的なスノーリゾートとして知られる北海道のニセコでは、時給アップや賃上げの動きが激しい。2023~2024年の冬シーズンは、ホテルの清掃スタッフの時給が2000円程度に上昇した。あるホテルでは、特に人員確保が難しい接客スタッフの賃金を約25%増額したという。インバウンド(訪日外国人)客数の急速な回復を受けて、従業員やアルバイトの争奪戦が過熱したことが大きな要因だ。